クリエイターが独立・開業するのに100万円以上かけていた頃

今回はDTP全盛の頃の思い出話から始めます。

DTPで独立・開業するということは、制作環境を整えるということ

今でこそ、ノートパソコンとAdobe CCの月々の支払い、あとインターネット環境を揃えれば、WEBクリエイターとして独立・開業することができますが、1990年代、クリエイターとして独立・開業するのに必要な環境を整えるには、100~150万円くらいの資金が必要でした。

ホームページというものがなかった当時、パソコンを使ってクリエイターが独立・開業するといえば、DTP専門業者になることです。そのために準備しなきゃいけない作業環境は、例えば次のような感じです。

ハードウェア

  • Power Macintosh(9500とか)
  • 20インチ以上のCRTディスプレイ(NANAO FlexScanシリーズとか)
  • 外付けMOドライブ(オリンパス、IOデーター、バッファローとか)
  • PostScriptプリンター(OKI Microlineとか)

ソフトウェア

  • DTPソフト(QuarkXpress、Aldus PageMaker)
  • ドローソフト(Adobe Illustrator)
  • ペイントソフト(Adobe Photoshop)
  • ATMフォント(モリサワ)

これに、フラットヘッドスキャナー、インクジェットプリンター(カラーのレザープリンターは高すぎた)、外付けハードディスク、またクライアントがWindowsの場合に備え、Mac版Microsoft Officeをそろえたりすると、200万円位かかったのではないでしょうか。さらに外出先での作業用にPower Bookを揃えたくなるのですが、ソフトウェアのライセンスが1台のみだったので、もう一セットそろえる必要がありました(ソフト起動時、シリアル番号の重複がないか、ネットワーク越しにチェックが入ります)。

一方で、これだけ環境を揃えたクリエイターが、優れた作品を生み出せるかといえば・・・それは別の話です。もちろん優れた作品を創り出す方はいらっしゃいます。ただ、1点ものよりは、数が稼げる書籍などの組版の方が効率が良いため、クライアントから支給された原稿をDTPソフトでテンプレートに流し込み、レイアウトを整えるといった作業を選ぶクリエイターの方が多かったように記憶しています。

制作環境が整えば仕事が回ってきた時代

DTPレイアウトの他に、今では仕事と言えるか微妙ですが、データーを別のファイル形式にコンバートするだけの作業もあったりしました。当時のDTPソフトはバージョンによってレイアウトがくずれたり、読み込めないということが当たり前でした。そこで「あそこの外注さんならファイルが読めるから、バージョンダウンしてもらおう」といった感じで依頼が行き、稼いでいる方もいました。

その他、英語版のソフトを持ってるとか、特殊なフォントを持っている等、ソフトやハードに投資したら、その分仕事がくるという時代でした。そのように投資して独立・開業したクリエイターは、なんとか資金を回収しようと、自分の強みとしての制作環境を名刺に入れ、元を取ろうと必死に営業していた気がします。

今クリエイターが起業するのは簡単

現時点でクリエイターが独立・開業するのに100万円もかかりません。ホームページ制作で起業する場合、10~30万円もあれば制作環境は揃ってしまいますし、もしかしたらその程度の制作環境は、独立・開業前から揃っている方も多いと思います。

また、クリエイターになるには、税理士や弁護士みたく、開業するための資格もいりません。大原簿記やLECに通ったり、時間をかけて難しい勉強をする必要もないですし、各アプリケーションの操作についても、図書館に行けばソフトの使用法が書いてある書籍を無料で読むことができます。

つまり、今のクリエイターは、独立・開業のための初期投資がほとんど必要ない職種の一つといえます。今日会社を辞め、明日にでも開業できてしまうほど参入障壁が低いのです。

まさに、誰もがクリエイターになれる時代になったといえます。Wordpress関連本を見ながら2つくらいホームページを作り、ランサーズなどのクラウドソーシングにポートフォリオとして登録すれば、ホームページ制作クリエイターという肩書を名乗ることだってできてしまいます。

一方で、あなたが参入した市場には、同じように起業したクリエイターたちで溢れかえっています。競合うずまくレッドオーシャンでの闘いが待ち構えています。すでに仕事の奪い合い、価格のたたき合いが起きていて、事業として軌道に乗せられる保証はどこにもありません。私のところにも、どうやったら競合から抜きんでることができるのかという相談がきますが、みんな同じような土俵で起業している以上、同じことをやって差をつけることは難しいでしょう。

かつてのクリエイターのように、自分の事業に投資してみては

それならば、他のクリエイターがやらないようなことをやってみてはいかがでしょう。

それは何かといえば、自分の事業への投資です。といっても株や不動産の投資ではありません。かつてハードやソフトに100万円以上かけていたクリエイターたちのように、クリエイターとしての自分の強みに繋がるようなモノやコトに対し、投資してみるということです。

例えば、農地を借りて自分で野菜を育てるクリエイター。お金を払って農業を体験し、野菜の写真やイラスト、自分の体験を毎日ブログでアップしつづければ、農家の気持ちが少しわかり、農業クリエイターとして注目されるかもしれません。また、そのブログ自体が自分のポートフォリオとなるので、地方創生を企画している団体に売り込みにだって行けるでしょう。

また、海外で経験を積むのも良いかもしれません。そこで、日本とは違うクリエイションの現場を体験し、いくつかプロジェクトをこなしてくれば、それがそのままあなたのプロフィールとなります。

私の場合、自分への投資はビジネスモデル・デザイナー®認定講師でした。それにより、クライアントのホームページ制作や運用だけでなく、クライアントの事業そのものを一緒に大きくしていくような形で、クライアントとパートナー関係を結べるようになったのです。認定講師になるのにそれ程大きな投資ではなかったのですが、それでも営業するときは「お金払った分、なんとか元をとってやろう」という気持ちが働きます。

ほかの職種の方々、たとえばラーメン屋さんを開業する方は、最初に数百万かけて店を出すわけですから、開店初日には広告を出したり、家族を巻き込んで近所のビラ配りを必死でやります。一方、今のクリエイターで、そういった必死さをみなぎらせている方はとても少ないような気がします。まだDTP全盛期の頃、名刺やリーフレットにまで自分の制作環境を記載していたクリエイターの方が、必死さがあったように思います。

20年前、DTPで独立したクリエイターほどお金をかける必要はないと思いますが、そこそこの金額を自分の事業へ投資してみると、事業主としての自覚がわき、他のクリエイターとは違うステージに立てるのではないでしょうか。