事例:YouTube TVのビジネスモデルは新たなキャッシュポイントとなるか

YouTubeが、地上波などの番組をネット配信するサービス「YouTube TV」を2017年4月より米国で開始しました(日経「ユーチューブ、TVを丸ごと手の中に CEOに聞く  動画同様いつでも視聴」)。サービス特徴として、放映時間にとらわれずに、地上波を視聴できる点です。好きなときに好きな動画をスマホで楽しむ「ミレニアル世代」をターゲットとしているようです。

日本でも放映時間外に番組を視聴できるサービスはいくつかありますが、15億人以上のユーザーを抱えるYouTubeのテレビ配信サービスの参入は、人々のライフスタイルを変える可能性があります。

今回は、このYouTube TVのサービスを踏まえつつ、YouTubeのビジネスモデルについて考えてみたいと思います。

YouTubeの動画配信のビジネスモデルは「情報整理型事業フォーマット」

YouTubeのサイトに行くと、世界中から投稿された様々な動画を検索し、視聴できます。その時、ユーザーは視聴するのに特に料金はかかりません。また、動画を投稿する側もサービスを利用するのに料金はかかりません。さらに、YouTubeサイトのトップページでは、視聴者の属性やその時いる場所により、最も相応しい動画をリスト表示もしてくれます。

以上の点から、YouTubeのビジネスモデルは「情報整理型事業フォーマット」と言えるでしょう。

情報整理型事業フォーマットのサービスの流れ

YouTubeが視聴者に対し、動画を配信するビジネスモデルを図にすると、以下のようになります。

中央の緑色の人物がYouTubeであり、緑色の点線がYouTubeのサービス範囲を表します。また、左側は世界中から投稿された動画群を表し、それらを整理して、右側の視聴者に提供するといった流れです。

この時のサービスの流れを考えると次のようになります。

いつもの図だと、ここで表される要素は、サービスだけではありません。ビジネスモデルで重要なお金の流れも表す必要があります。

しかし、YouTubeの投稿動画配信サービスを分析してみると、キャッシュポイントが見当たりません。動画を投稿する投稿者も、その動画を閲覧する視聴者も、すべて無料でYouTubeのサービスを利用することができるのです。

では、YouTubeのキャッシュポイントはいったい何でしょうか。

広告でキャッシュポイントを作る「マッチング型事業フォーマット」

YouTubeで動画を視聴するとき、見たい動画の前に、CMが広告として表示される時があります。この広告サービスを利用するために、広告主はYouTubeに広告出稿料金を支払う必要があります。この広告サービスに支払われる出稿料金がYouTubeの主なキャッシュポイントと言えます。

広告が表示される時、YouTubeはランダムに表示しているわけではなく、閲覧している視聴者の属性を参照し、広告の内容にマッチした視聴者に対して、広告を表示する仕組みをとっています。

広告の内容に興味を持った視聴者は、その広告をクリックし、企業ページに直接ジャンプすることができます。さらに、その商品ページを見た視聴者が、その商品を購入することもあります。

広告出稿主にしてみると、15億人ユーザーをターゲットとする市場で、YouTubeのシステムが適切な属性に合わせる形で自社の製品広告を表示してくれるわけですから、ダイレクトメールやポスティングよりも広大な範囲にアピールできるわけです。さらにクリックされなければ課金されないため、とても効率的の良い広告サービスと言えるでしょう。

「YouTube Red」という有料動画視聴サービス

YouTubeが米国で展開しているサービスに「YouTube Red」があります。これは一ヶ月9.99ドル支払うことにより、以下の機能を利用できるサブスクリプションサービスです。

  • 動画閲覧時に広告が表示されない。
  • 動画をオフライン再生できる。
  • 動画をバックグラウンド再生できる。
  • YouTube専用コンテンツを視聴できる。
  • Google Play Musicを利用できる

このビジネスモデルは、他の法人関係を使わずにYouTubeが自社システムを活用することでサービスを提供する「自家発電型事業フォーマット」と言えます。この時、サービスとお金の流れは以下のようになります。

視聴者が動画閲覧時に感じているストレスに対し、視聴者が快適な動画視聴を楽しめるという機能といった形での有料オプションサービスを提供しているわけです。ストレスフリーの環境を、視聴者がYouTubeから買うという感じですね。

なお、YouTubeを利用してきたユーザー側からは、お金を払って投稿動画を見なければいけないという点で非難の声も上がっているようです。

「YouTube TV」というビデオ・オン・デマンドサービス

冒頭でも述べた通り、YouTube TVというサービスは、放映時間にとらわれることなく、50近い地上波の番組を視聴できるビデオ・オンデマンドサービスです。

日経記事によると、ユーザーは自分の好みのジャンルやキーワードを登録することで、それに該当する番組をクラウド上に自動で保存してくれるそうです。これまではHDレコーダーやDVDレコーダーに番組を「録画」してきたものが、「番組を保存」という操作にかわることになります。なお、保存した番組は、当然のことながら検索・再生可能になるそうです。

YouTube TVの料金は月額35ドルです。アメリカのケーブルテレビや衛星放送はこの価格帯は、米国内での一般的なケーブルテレビや衛星放送が50~70ドルくらいと言われているので、YouTube TVは料金を半分以下に設定されているようです。

このYouTube TVのサービスとお金の流れを描くと次のようになります。

テレビ局は、自社番組をYouTubeに提供し、YouTubeは契約した視聴者に番組を提供します。視聴者はYouTubeに月々35ドル支払い、YouTubeはテレビ局に放映権料を支払うという形です。

このビジネスモデルは、HuluやNetflixでも同様のため、YouTubeは後発になりますが、HuluやNetflixがレンタルビデオのユーザーを取り込むのに対し、YouTubeはテレビを普通に見ているユーザーが対象となっているため、後発ながらも市場規模はとても大きいと言えます。

YouTubeのビジネスモデル全体像

これらのビジネスモデルをまとめると次のような形になります。

YouTubeは動画共有・配信サービスとして世の中で認知されていますが、YouTube Redではオリジナル動画コンテンツを配信するものの、サイト上にある動画のほとんどが、ユーザーからの投稿動画だったりテレビ局の番組となります。つまり、YouTube側は動画コンテンツを売るのではなく、動画共有・配信の仕組みを提供しているのみといえます。

良質な動画コンテンツを作るにはコストがかかります。しかし、コストをかけたからといって、万人から評価を得られる保証もありません。

そういった不安定な要素で勝負するのではなく、これまでになかった動画共有・配信サービスというプラットフォームを提供し、人々の動画視聴スタイルを一新しました。それでいて世界一動画を配信している会社として認知されているのですから、例えて言うなら「人の褌で相撲を取る」ビジネスモデルと言えるでしょう。

備考:YouTube TV出現による影響

番組で流される広告はテレビCMと同様?

2017年7月時点では日本でまだサービスが開始されていないので確認できていないのですが、YouTube TVは、番組制作に関わるスポンサー絡みなのか、地上波同様にテレビCMを見なくてはいけないようです。

テレビ局のビジネスモデルが旧来のままである以上、CMの扱いについては、地上波と同じ形態になるのは仕方ないことなのかもしれませんが、YouTube Redではお金を払うことでCMを見なくて済むのに、YouTube TVではCMを見させられるという状況に、YouTubeユーザーは戸惑うと思われます。

一方で、YouTubeが現在展開する広告のビジネスモデルが、地上波を流す際に適用されるような仕組みが確立すると、視聴者側の料金負担も減り、さらにテレビ局側も番組制作のビジネスモデルを再構築する必要がでてきて、面白い展開になるのではないでしょうか。

パケット使用量は増加、ユーザーは通信コストがさらにかかる

YouTube TVはライブストリーミングでの視聴となるため、スポーツイベントやニュースなど、リアルタイム性がある番組は、視聴が集中すると思われ、回線が込み合う可能性があります。

また、動画視聴のためのパケット使用量も確実に増えることから、ユーザー側の通信コスト負担もこれまで以上に増えると思われますが、仮にテレビ局がMVNOと組み、YouTube TVパックみたいなプランを出してくると、新たなビジネスモデルが出来上がると思います。

ターゲットは「ミレニアル世代」なのか?

日経新聞の記事によれば、YouTube TVのターゲットとしては、好きなときに好きな動画をスマホで楽しむ「ミレニアル世代」のようですが、その世代が地上波の番組に興味を持っているかどうか、個人的に疑問です。

そもそも「ミレニアル世代」はテレビの前に座ってコンテンツを楽しまない以上、地上派の番組を見る習慣がない可能性があります。そうなると、地上波の番組を楽しんでいるのは今のような動画配信がなくテレビに親しんだ、「カウチポテト族」ではないかと考えています。

「カウチポテト族」という言葉は、1987年にニューヨークの週刊誌「New York」に若者の動向として取り上げられたものです(参考:Wikipedia「カウチポテト族」)。現在2017年ですので、当時20歳前後の若者が30年たった世代、つまり今の40代~50代がかつてテレビ番組にどっぷりつかった世代といえます。

かつての「カウチポテト族」は、今スマホやタブレットを使いこなしているユーザーです。見逃しや録画のストレスから解放されることから、このサービスに最も親しみを感じるような気がしています。


以上、YouTubeが提供する各種サービスから、YouTubeのビジネスモデルを検討しましたが、動画の配信方法をインターネットに移行したことで、私たちの生活を変え、他の産業のビジネスモデルに影響を及ぼすあたり、Googleの持つイノベーションの力と言えるでしょう。