事例:洗濯から日本人のライフスタイルを変えるWASH&FOLD

WASH&FOLD(ビジネスモデル)

ビジネスモデル・デザイナー®無料通信講座の練習問題で紹介させていただいた株式会社アピッシュのサービスWASH&FOLDが、多くのメディアで注目されているようです(参考:WASH&FOLD「お知らせ」)。

事業内容としては「洗濯」というシンプルなテーマですが、Tシャツや下着などの日用品の衣類に特化した洗濯サービスにもかかわらず、アピッシュ社のこのサービスはクリーニング屋以上に売り上げを伸ばしています。

今回はこのWASH&FOLDのサービスを展開するアピッシュ社のビジネスモデルを見てみたいと思います。

  • 本ビジネスモデル研究については、一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表 中山匡著「失敗をゼロにする 起業のバイブル」を元に、ビジネスモデル・デザイナー®認定講師が行っています。

WASH&FOLDのビジネスモデルは「自家発電型事業フォーマット」

WASH&FOLDホームページのトップに記載された次の文章の通り、アピシュ社は「洗濯」というとてもシンプルなテーマでサービス展開をしています。

普段の洗濯に特化した家事代行サービスです。
毎日の洗濯ものを水洗いして(WASH)、乾燥し、 手でたたみ、(FOLD)お渡しいたします。
店舗ではコインランドリーやクリーニングもご利用できます。

上記のうち、水洗いする→乾燥する→畳むというメインサービスは、すべて自社で完結していることから、WASH&FOLDのビジネスモデルは「自家発電型事業フォーマット」と言えます。

自家発電型事業フォーマットの流れ

WASH&FOLDが利用者に対し、サービスを展開するビジネスモデルを図にすると、以下のようになります。

中央の緑色の人物がWASH&FOLDであり、緑色の点線がWASH&FOLDのサービス範囲を表します。左側は業務上で行うことを表し、それらを整理して商品化し、「洗濯代行」という形で、右側の顧客にサービス提供するといった流れです。

この時のサービスとキャッシュポイントの流れを考えると次のようになります。

WASH&FOLDは洗濯代行サービスを提供し、顧客はそれに対して料金を支払うという、いたってシンプルな流れです。

別のキャッシュポイントであるフランチャイズ展開

アピッシュ社は、WASH&FOLDの洗濯代行サービスをパッケージ化し、フランチャイズ展開も行っています。この時のビジネスモデルも「自家発電型事業フォーマット」となります。

自社のノウハウやスキルを収益をあげるための事業パッケージにまとめ上げ、FC加盟を希望するオーナーに開業準備から店舗運営・管理までのノウハウを提供します。一方、FC加盟オーナーは自分で事業サービスを開発する代わりに、WASH&FOLDにロイヤリティーを支払うという仕組みです。

WASH&FOLDのビジネスモデル全体像

これらのビジネスモデルをまとめると、WASH&FOLDのビジネスモデルは次のような形になります。

自社で一般顧客にサービスを提供してキャッシュポイントを作りながらも、そのノウハウをパッケージングし、フランチャイズ店に提供・サポートすることで、第二のキャッシュポイントを生み出しているのがわかります。

アピッシュ社はWASH&FOLDという小資本ながら、洗濯代行というサービスを自社で開発してきました。ただ、多くの洗濯物をピックアップするためには、広範囲で店舗を構えなければいけないという課題があります。

そこでフランチャイズ展開を行うことで、サービス提供地域を広げると同時に、ロイヤリティーという二つ目のキャッシュポイントを作り出しました。経営上の課題を解決すると同時に、ビジネスをより強固にしたビジネスモデルと言えます。

売上規模1億円のビジネスモデル

ビジネスモデル・デザイナー®無料通信講座の練習問題にて、2006年頃にアピッシュ社のビジネスモデルを発見したとお伝えしてますが、クリーニング屋の一般的な年商が3,000万円ほどであるのに対し、当時のアピッシュ社の売上規模は1億円でした。

その後、類似のサービスが2008年頃に多く広がっていきましたが、2017年現在もメディアで注目されているところは、ほとんどないと思われます。

アピッシュ社代表の山崎さんは、どうしてこのようなサービスを生み出すことができたのでしょうか。

元々は価値転換型事業フォーマット

クリーニング業界において、自社で洗濯しながらフランチャイズも行うというビジネスモデルは特に目新しいものではありません。

WASH&FOLDが異なるのは、衣類をきれいにするというニーズの中でも、ごく日常的な衣類の洗濯に特化した点です。クリーニングに出すほどでもないけれども、Tシャツや下着などの衣類を代わりに洗濯して欲しいという方は大勢いらっしゃると思います。例えば単身赴任の多忙なサラリーマンの方や、共働きで子育てもやらなければならない女性にとって、この洗濯代行サービスはとても助かるサービスですね。

実はこの「洗濯し、乾燥し、畳む」というサービスは、日本ではあまり知られていませんが、アピッシュ社代表の山崎美香さんがアメリカに行ったとき、コインランドリーで自ら体験され、とても良かったので、そのサービスを日本で展開しようと考えたのがきっかけだそうです。

そういった点で、立ち上げ当初のビジネスモデルは、海外のサービスを日本向けに転換した「価値転換型事業フォーマット」と言えるでしょう。

左側の「洗濯し、乾燥し、畳む」→「他社商品」という部分は、アメリカでのコインランドリーサービスを示します。それを山崎さんが日本型商品に転換して商品化し、洗濯代行サービスとして展開したと言えます。

洗濯で日本人のライフスタイルを変える「WHY」

ところで今回のビジネスモデルを考えるにあたり、衣類を洗うという点のみに注目してしまうと、「Tシャツや下着や自宅で簡単に洗える。誰でもできることにお金を払うはずがない」という思考になってしまいます。

アピッシュ社の山崎さんが素晴らしいのは、事業を起こすにあたり、単に洗濯というだけでなく、洗濯の向こう側に見える人々の生活を見据えた「WHY」を発想できたことです。

経団連「サービス産業における中小企業の生産性向上の方向性 」にて株式会社アピッシュの事例が紹介されていますので、以下に引用します。

同サービスのコンセプトは、「洗濯から開放される新習慣」。同コンセプトには、洗濯は基本的には誰が行なっても大きく差が出るものでもないという認識のもと、洗濯そのものを外注することで、その分の時間を夫婦での食事や子どもと触れ合いの時間にするなど、有意義に使うことで、豊かな生活を送って欲しいとの思いが込められている。

つまり、山崎さんが描いたのは、次のようなライフスタイルです。

WASH&FOLDのサービスを利用する

人々は洗濯から解放される

自分の時間、家族といる時間が出来きるようになる

また、都市部での観光事業が活発になると、景観を考慮した条例が施行され、洗濯物が外に干せなくなる可能性もあり、WASH&FOLDの需要は高まると思います。さらにPM2.5などの空気汚染もあり、外に干した洗濯物が被害にあうこと避けるため、洗濯を外注化するのが当たり前になることも考えられます。アピッシュ社は、WASH&FOLDという洗濯代行サービスを通じて、人々のライフスタイルだけでなく、街並みや家族の健康も守るサービスとして受け入れられるのではないでしょうか。

「WHY」に共感した人だけがフランチャイズにも加盟できる

アピッシュ社代表山崎さんは、フランチャイズ加盟希望オーナーに対しても「洗濯代行に未来を一緒に感じてもらえる方」として、「WHY」への共感を呼び掛けています。

いかにご自身の「WHY」を大切にされているか伝わってきます。

ここで思い出されるのは、当サイトでも度々引用しているサイモン・シネックの言葉です。

「WHY:自分がいましていることを、しているWHY(理由)。これを名言できる人や企業は少ない。ここで留意してほしいのは、このWHYには「お金を稼ぐため」という理由は含まれない。それは結果にすぎない。私がWHYと問うとき、それは、あなたの目的はなんですか、大儀や理念はなんですかと尋ねているのだ。なぜ、あなたの会社は存在しているのか?なぜあなたは毎朝、ベッドから這い出し、出勤しているのか?なぜ、そんなことを気にかけねばならないのか?」

別のビジネスモデル研究「事例:ゴールデン・サークル理論から見えてくるSEtech社 関根社長の発想力」でも紹介したこの書籍で、サイモン・シネックが何度も強調していますが、「WHY」こそが、人々を行動に移すことができるのです。

単に衣類をきれいにするだけならば自分でもできます。しかしアピッシュ社はWASH&FOLDのサービスを通じ、数千円の金銭と引き換えに、何ものにも代えがたい時間を私たちに提供していると言えます。

山崎さんは週刊東洋経済「2017年、注目の女性経営者10」に選ばれましたが、この「WHY」を思いつく発想力こそが、まさにビジネスリーダーに必要な素質と言えます。