クリエイターの「差別化戦略」の果てに見えてくるもの

起業するとき、自分の好きなことややりたいこと、あるいは得意なことで事業を始めようとする方が多いと思います。

クリエイターの方も、会社勤めの頃に培ったスキルを活かし、デザインやプログラミングという分野で起業される方も多いのではないでしょうか。

ただ、ランサーズのようなクラウドソーシングに登録し、いざ仕事を得ようと思っても、似たようなスキルやポートフォリオで発注元に売り込みをかける競合クリエイターがたくさんいることを知り、愕然となると思います。

そこで、ビジネス系セミナーなどでも言われているのが「差別化」です。

競合を分析し、競合にはない自分独自の強みを見いだし、それをUSP(Unique Selling Proposition)としてアピールする。それにより、同じ市場で商品やサービス面での優位性を得るという考え方です。

しかし、ビジネスモデル・デザイナー®が考えるビジネスモデルは、市場における「差別化」を否定的に捉えています。(その代わりに「競合ゼロ」であることを常に意識します。)

どうして「差別化」ではいけないのか、考えてみたいと思います。

「競争上の優位性」は市場で一次的なもの

経営戦略の用語に、書籍『競争の戦略』の著者マイケル・ポーター氏が提唱した「差別化戦略」がありますが、そもそもどういったことでしょうか。Wikipediaから引用してみます(参考:「差別化戦略」)。

差別化戦略(さべつかせんりゃく)とは、マイケル・ポーターによって提唱された競争戦略のうちの一つで、特定商品(製品やサービスを含む)における市場を同質とみなし、競合他社の商品と比較して機能やサービス面において差異を設けることで、競争上の優位性を得ようとすることである。

理解しやすくするために、例としてセルフサービス系のコーヒーチェーン店でドトールコーヒーとカフェ・ベローチェを比較してみます。

例:セルフサービス系カフェの差別化

両者の提供する商品の価格帯は、スターバックスやタリーズコーヒーほど高くはありませんが、コンビニやファーストフードのドリンクのような安さはありません。しかし、それぞれの商品で「差異」を設けています。

まずは主力商品のコーヒーで比較してみたいと思います。

ドトールコーヒー カフェ・ベローチェ
ブレンドコーヒーS 220円 200円
ブレンドコーヒーM 270円
ブレンドコーヒーL 300円 240円
コーヒー豆の販売
  • ベローチェよりドトールの方がやや高めですが、価格帯としては「差別化」といえる程の違いは殆ど無いと言えます。ただ、両者とも気軽に入れるセルフサービス系カフェでありながらも、ドトールコーヒーはさまざまな種類のコーヒー豆を販売するキャッシュポイントがあると同時に、コーヒー店としての味へのこだわりを訴求していると言えます。

コーヒー以外では、両者ともに軽食やデザート商品を扱っています。

ドトールコーヒー カフェ・ベローチェ
ホットドック系 220円
(ジャーマンドック)
ホットサンド系 340円
(カルツォーネ7種類野菜の
カポナータ&バジルチキン)
340円
(粗挽きオールポーク・ドック)
デザート系 360円
(ミルクレープ)
310円
(コーヒーゼリー)
軽食系 410円
(ミラノサンドA 生ハム・ボンレスハム
・ボローニャソーセージ)
550円
(パスタ(王道ナポリタン))
  • ホットドック系は、ベローチェでも以前扱っていましたが、今はやめてしまったようです。一方、ドトールのジャーマンドッグはロングセラーの商品として市場に根付き、ベローチェとの差別化につながっているといえます。
  • ホットサンド系については、上記以外でも両者はメニューを揃えています。ただ、ネーミングでもわかるように、ドトールの方は、本格イタリア料理へのこだわり感を出し、ブランディング効果を狙っています。
  • デザート系も、両者ともに様々な商品を扱っていますが、ここでは両者の定番商品をあげてみました。ドトールのミルクレープ、ベローチェのコーヒーゼリーはロングセラー商品といえ、それぞれの特徴を出しているといえます。
  • 「軽食系」として扱っている商品ですが、ドトールがパンとイタリアというテーマの延長線上に商品を位置づけているのに対し、ベローチェはパスタという食事系の商品にしています。
    ドトールの「ミラノサンド」は、1993年より発売され、軽食系ではジャーマンドッグに次ぐ定番商品となりました。女性客にも人気の商品で、ランチタイムにOL層を呼び込むきっかけにもなったといえます。パンやイタリアというテーマにこだわって開発されたこの商品は、新作を出すたびに話題になることから、ドトールのブランディングにも大きく貢献しています。
    一方、ベローチェの「パスタ(王道ナポリタン)」ですが、傾向としては女性客のランチ向けメニューを提供していると言えますが、セルフサービス系カフェの定番であるパン類から離れ、食事系メニュー寄りです。こうなるとベローチェの競合は、ドトールのようなセルフサービス系カフェではなく、一般の喫茶店やファミリーレストランと言えます。

上記以外でも、両者ともに、店舗の作りや接客方法といった点で、様々な差別化を行っています。どちらが勝者であるかはまだわかりませんが、両者ともにセルフサービス系カフェ業界で有名なチェーン店になっています。

「差別化」は同じ市場でのポジションの奪い合い

セルフサービス系カフェ業界でいえば、一方でラテ系ドリンクを始めれば、翌年には競合側もラテを始めるといったように、差別化戦略は一次的に市場で優位に立つことができますが、すぐに真似されてしまうのが実情です。

また、価格帯は異なっても、コンビニ業界では、セルフサービス系カフェのビジネスモデルをさらに簡略化した形で模倣し、メニューに落とし込むことを行っています。

さらに、差別化戦略は、一つの市場の中で競合を蹴落とし、自分がそのポジションに立つという構図であるため、需要があるうちはまだ良いのですが、冷え切ってしまうと、その市場にある業者が共倒れになる可能性もあります。

クリエイターの差別化戦略の終点は「全部できます」

クリエイターの中にも、差別化戦略をされている方が大勢いらっしゃいます。例えば、以下のような感じです。

  • コピーも作れるデザイナー
  • 集客施策にも長けたWEBプロデューサー
  • iOSとAndroidの両OSに対応できるアプリ開発者

クリエイター向けセミナーでも、上記のように、自分のメインスキルにプラスアルファする形での差別化戦略はうたわれていて、「そんなのあたりまえでしょ」といった感じて、コモディティ化する傾向にあります。

最近では、そのプラスアルファがさらに増え、写真撮影やSEO対策、ライティングもできるデザイナー、全言語対応できるフルスタックエンジニアも登場してきており、最終的に「全部できます」といったことをアピールするクリエイターさんもいて、差別化戦略すら成り立たない世界になりつつあります。

こういったフルスタックエンジニアなど、市場で流行っているクリエイションをすべて一人で賄う方がいる一方、こういったクリエイションをすべてこなすための人工知能も開発が進んでいます。

こうなってくると、今のクリエイション業界で働く人そのものがいらなくなる可能性も出てきます。せっかく身に着けたスキルも、数年後には無駄になってしまうかもしれません。

「差別化」ではなく「勝てるマーケット」を見極める

例えば、1970年代のコンピューター業界では、IBMのメインフレームが主流でした。コンピューターはあくまでもビジネスユースであり、個人が使うことなど業界の人々は考えもしてませんでした。

そういった中、パーソナルコンピューターという市場を見つけた人々がいます。スティーブ・ジョブズもそのうちの一人で、Apple IIの成功により、ジョブスは大きな資産を得ることになります。

その後、Macintoshでパーソナルコンピューター市場をリードしながら、スマートフォン市場、タブレット市場をけん引する世界一のメーカーになりました。

以下は、1984年にApple Computerが出したMacintoshの有名なCMです。

ただ、スティーブ・ジョブズは一度Apple社から追放され、1985年、新たにNeXT社というコンピューターメーカーを創立します。(このあたりは、ウォルター・アイザックソンが書いたSteve Jobsの伝記をぜひお読みいただければと思います。)

ペーパーバック版 スティーブ・ジョブズ 1

1980年代半ば、すでにパーソナルコンピューター市場は様々なメーカーが参入してきていました。そこに見られるのは、性能処理の高速化や、大容量メモリー、ラップトップの軽量化など、いわゆる差別化戦略です。

そういった中、スティーブ・ジョブズはWorkstationという市場に目を付けます。その市場をScience EngineeringとProfessionalという二つの領域にわけ、Professional市場の競合がまだSun Micorsystemsが参入したての状態であることを指摘し、NeXT社がターゲットを絞ろうと考えるのです(以下の動画参照(英語のみ))。

この記事の冒頭で、ビジネスモデル・デザイナー®が「競合ゼロ」であることを意識するといったのは、まさにスティーブ・ジョブズが動画の中で語るような「勝てるマーケット」を見つけるための視点と言えます。

Appleに戻った後、スティーブ・ジョブズはiPadでタブレット市場を生み出したり、iTunes Storeで新たな音楽市場を創り出しましたが、「特定商品(製品やサービスを含む)における市場を同質とみなし、競合他社の商品と比較して機能やサービス面において差異を設け」るような「差別化戦略」ではありません。ニーズはあるけれども、誰も目をつけなかった市場にファーストペンギンとして参入し、市場を作り上げていったと言えます。

クリエイターの方々が差別化を行うとき、スキルという機能を追加する人が多いのですが、費用を投資し、たくさんのスキルを身に着けたとしても、結果は見えています。

そうではなく、クリエイターが求められているのはどういった市場なのか、その中で他のクリエイターが目をつけていない市場、つまり「勝てるマーケット」はいったいどこなのかを見極める力が必要なのです。