事例:DMMの家事代行サービス Okan は人材のシェアリング・エコノミー

DMM Okan

エアコンクリーニングや水道トラブルなど、専門的なメンテナンスのために外部のサービスを利用するという習慣は、日本人のライフスタイルにもだいぶ浸透してきたと思いますが、「事例:洗濯から日本人のライフスタイルを変えるWASH&FOLD」でも紹介したように、炊事や洗濯、部屋の掃除、アイロンがけ、料理など、一般的な家事までを外注化し、空いた時間を他のことに活用するといったライフスタイルを提案するサービスが、次々に生まれてきています。

DMM Okanもその一つです。家事を手伝って欲しい時、専用アプリから担当者を依頼し、自分の代わりに家事をしてもらえるという家事代行サービスですが、特徴的なのは、他の家事代行サービスと違い、実際に家事代行を担当するスタッフが一般人、つまり素人なのです。

2016年12月オープン時は東京23区のみのテストマーケティングでしたが、2017年3月からは全国展開を開始し、依頼件数だけでなく、登録するスタッフも増えているようです。今回はこのDMM Okanのビジネスモデルを見てみたいと思います。

  • 本ビジネスモデル研究については、一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表 中山匡著「失敗をゼロにする 起業のバイブル」を元に、ビジネスモデル・デザイナー®認定講師が行っています。

DMM Okanのビジネスモデルは「マッチング型事業フォーマット」

DMM Okanのホームページには、「新しい『家事代行』サービスはじまります。」というキャッチコピーに続き、次の文言が記載されています。

DMM Okan(おかん)は、家事を手伝ってほしいあなたと
家事が得意な”Okan”(おかん)をマッチングする新しい家事代行サービスです。
専用アプリからカンタンにご利用いただけます。

ここで言われているように、DMM Okanはスマホなどの専用アプリをインターフェイスとし、「家事を手伝ってほしいあなた」と「家事が得意な”Okan”(おかん)」をマッチングするビジネスモデルと言えます。

マッチング型事業フォーマットの流れ

DMM Okanが顧客に対してサービスを展開するビジネスモデルを図にすると、以下のようになります。

マッチング型ビジネスモデル

中央の緑色の人物がDMM Okanであり、緑色の点線がDMM Okanのサービス範囲を表します。左側は家事代行を実際に行う”Okan”(キャスト)の方たちで、それらを整理し、「家事代行」という形で、右側の顧客にサービス提供するといった流れです。

この時のサービスとキャッシュポイントの流れを考えると次のようになります。

マッチング型ビジネスモデル

DMM Okanは、「家事が得意」な一般の人に「キャスト」として登録を促し、リスト化します。そして専用アプリを通じて「キャスト」を顧客に対して提案・マッチングし、家事代行サービスとして提供しています。

事業フォーマットを比較する意味で、仮にあなたが家事代行サービスというテーマで起業する場合を考えてみます。

起業したての頃は、あなた自身が顧客のところに出向いて掃除や洗濯を行うという形になると思います。その時のビジネスモデルは、次のような「自家発電型事業フォーマット」と言えます。

自家発電型ビジネスモデル

上記のような事業フォーマットで起業する場合、まずあなたは自分が身につけた「家事代行」にまつわるスキルを用いてサービスを提供します。ただ、同じ時間に予約が入ったり、あなた自身が病気などしたとき、代わりにサービスを提供する人が必要になります。そうすると、最初のうちは身内や知人に手伝ってもらい、順調に仕事が回り始めればスタッフを雇って教育し、サービスを拡大していくことになります。家事代行会社の社長であるあなたは、家事代行のプロとして世の中に認知されることになるでしょう。

一方、DMM Okanの「マッチング型事業フォーマット」では、実際に家事を代行する「キャスト」はDMM Okanの社員やスタッフではなく、家事を得意とする一般の人です。その人たちに専用アプリを通じて登録してもらいます。一方家事を依頼したい顧客には、最適な「キャスト」を専用アプリを通じて提案し、マッチングをはかるというビジネスモデルです。

この時、DMM Okanは、「家事代行サービス」とうたいながらも、自家発電型事業フォーマットのように自ら家事代行サービスを提供するためのスキルを必要とせず、依頼主への提案力と「キャスト」の管理能力を備えれば良いということになります。

ビジネスモデル・デザイナー®無料通信講座でも「自前の資産を一切持たずに行うレンタルビデオ屋」というのを紹介させていただきましたが、DMMのOkanも自前で家事代行業を行うスタッフを雇わず、ビジネスモデルを成立させています。

ただ、「キャスト」のサービス品質を保つため、実際には研修やサポートも行っているようですので、「家事代行」というテーマに沿った形で、キャストと依頼主の間に介在するような、マッチングシステムといえるでしょう。

DMM Okanは料金体系で差別化

家事代行というテーマで、登録スタッフと顧客をマッチングさせるサービスは、実はすでに数社あります。

競合がすでにある中、後発であるDMM Okanがどうやって立ち上がってきたのかといえば、それは料金体系での差別化とも言えます。

では、DMM Okanの料金体系を見てみましょう。

利用料金(顧客からDMM Okanへ支払われる料金) 1.5時間あたり3,600円~
(延長30分あたり1,200円~)
「キャスト」時給(DMM Okanからキャストへの支払われる報酬) 10時間未満の「おしごと時間」で1,680円~
(「おしごとするほどアップ」というシステムで、10時間以上働くと1,800円、10時間以上が2週続いたら1,920円)

DMM Okanのサイト内では、利用料金については「業界最低水準価格」、キャストに支払う時給については「業界最高水準の高時給」とうたっています。

実際にどうか、DMM Okanと似たようなサービスにCaSyタスカジがあるので、料金や様々なオプションを比較してみます(2017年8月24日時点)。

依頼主の利用料金比較

DMM Okan CaSy タスカジ
スポット利用料金  2,400円~
(最低利用時間は1.5時間/3,600円からですが、比較のため、1時間で算出)
 2,500円~
(1回2時間以上)
 1,850円~
(3時間固定)
定期利用 なし  あり(週1/隔週/4週事)  あり(毎週/隔週)
交通費 利用料金に含まれている。ただし買い物依頼時の商品代金や交通費は依頼者負担 700円  依頼時に交通費自動計算された金額を直接スタッフに支払い
キャンセル料 開始3時間前キャンセルの場合50%負担、無連絡の場合100%負担 サービス前々日の18時以降のキャンセルの場合100%負担 72時間~24時間のキャンセルの場合50%負担、24時間以内のキャンセルの場合100%負担
  • 1時間あたりの計算だとタスカジが最安値ですが、依頼主が支払う最低利用時間から計算すれば、DMM Okanは3,600円、CaSyは5,000円、タスカジは5,550円となります。
  • CaSyとタスカジは定期利用プランを入れているのに対し、DMM Okanはスポットのみとシンプルです。
  • 交通費は、CaSyとタスカジは利用料金とは別に支払う形ですが、DMM Okanは利用料金に含まれています。
  • キャンセルについて、CaSyとタスカジは前日キャンセルで依頼主側が100%負担となりますが、DMM Okanは前日キャンセルでもお金がかからず、しかも開始3時間前のキャンセルの時点で初めて依頼主側のキャンセル料が発生します。

スタッフの報酬金額比較

DMM Okan CaSy タスカジ
スタート時点でのスタッフ時給 1,680円~  1,480円~  1,200円~
交通費 自己負担  別途支給 別途支給(全額現金にて当日支給)
昇給
(各ホームページの文言を引用)
あり(「おしごとするほどアップ」) あり(「あなたのやる気次第で時給アップも可」) あり(「ご依頼者からの評価や お仕事ぶりなどにより設定可能額がアップ」)
  • スタート時点での時給は、DMM Okanが一番高いです。
  • 交通費はCaSyやタスカジは顧客から支払ってもらう形ですが、DMM Okanは自己負担となります。
  • 昇給について、DMM Okanは働いた時間数によって上がっていきますが、CaSyは「やる気次第」、タスカジは「依頼者からの評価やお仕事ぶり」といった人事評価によるものです。

以上の点から、DMM Okanの料金体系は、依頼主にとって安くてシンプルで利用しやすい設計になっていますし、スタッフ側から見ても、交通費負担が気になるものの、スタート時点での時給も高く、昇給基準もわかりやすく、やる気にも繋がる内容と言えるでしょう。

人材シェアリング・エコノミーによる産業構造の変化

DMM Okanはシェアリング・エコノミーの一種と言えます。

シェアリング・エコノミーというと、空いている部屋を宿として有効活用する場所のシェアだったり、フリーマーケットなどですでに使わないものを安く人に譲るといったモノのシェアが思い浮かびますが、DMM Okan では、人材のシェアを行っていると言えます。

では、どういった人材のシェアなのでしょうか。

DMM Okan が目を付けたのが、単に時間が空いている人というだけではなく、プロではないけれども「家事に得意」という人たちです。想定されるのが、Okanという名の通り、主婦の方々ですね。

主婦の方々は炊事や洗濯、料理などを日常的に行っています。おそらく「家事に得意」として「キャスト」に登録してくる以上、属性として、単に働ければいいというだけでなく、こだわりみたいなものも持っていると思われます。ただ、各家庭ごとにいろいろな家事のやり方があると思います。そこで「キャスト」として登録した方々に対し、DMM Okan側で研修を行うことで、サービスとしての均質化を保つことができます。

さらに、インターネットの普及により、プロの掃除の技を一般人でも知ることができるようになりました。以前は入手困難だったプロ用の道具類もDIYショップなどで簡単に入手できます。このように技術のコモディディ化が進み、プロと素人の境界が曖昧になりつつあるのが現状です。

作業結果がほぼ同じであれば、当然のことながら、ユーザーは安い方を選ぶようになるでしょう。「家事代行」という一般的には贅沢と思われそうなサービスを、DMM Okan は、妥当な価格帯とわかりやすいメニューで、「家事は手軽にアウトソーシングできる」という新しいライフスタイルを日本人に提案していると言えます。

このように、シェアリング・エコノミーはこれまでの産業構造を変えていく力があります。民泊の出現によりホテル業界が様々な変革を求められているように、DMM Okanは家事代行サービス業界の産業構造を変えるのではないかと思われます。

確証あるデータから仕組みを考えるDMM

株式会社DMM.comといえば、AV業界で一躍有名になりましたが、今はFXやロボット、英会話、携帯キャリアなど、様々な事業に進出しています。

一見節操のないように見える事業展開ですが、このように振舞う会社の思想をとても分かりやすく語ってくれているのが、次のコミックです。

インベスターZ(9)

このコミックによると、AV事業中心だった頃、商売として全国のセルビデオ屋に対して100本のセルビデオを送り、3ヵ月後に売れ残りを返品してもらうという、富山の薬売りのような委託販売をやっていたそうです。そして、それにより得たものは「確証あるデータ」でした。

セルビデオを売り切りるだけだと、単に売れて終わりとなってしまうのですが、委託販売をすることで、どの作品やジャンルがどのくらい売れたか、具体的な数字でわかるようになります。

そこで集められた膨大なデーターを参照することで、物流や生産コストを下げることができる一方、製作の現場には他のAVメーカーより高い報酬を支払うことができます。その結果、作品品質があがり、競合のいない状態、つまり「エロでは世界一の企業」になったそうです(その状態を「インベスターZ(9)」では「ライバル不在のピンクオーシャン」と呼んでいました)。

さらに、AVメーカーとして得た収入を使って、「思いついたらなんでもやってみる」という姿勢で「将来自分たちを脅かすであろう事業には積極的に投資」しながら、今のように幅広く事業展開しているとのことでした。

「確証あるデータ」という視点から見てみると、DMM Okanは家事代行サービスを通じて人々のライフスタイルのデーターを集めることができます。そのデーターを活用しながら、DMM Okanのマッチングシステムと組み合わせることで、別の事業で面白い展開ができると思います。

DMM Okanのロゴにも「誰かの”得意”であなたを”笑顔”に」と書かれていますが、DMMが今後どういったシェアリング・エコノミー事業に入ってくるのか、とても楽しみです