ビジネスのアイディアは「今までになかったものを新しく考え出すこと」とは違う

「ビジネスモデルを創造するクリエイター」養成プロジェクトの中で、2017年5月からビジネスモデル・デザイナー®認定講座を開催しています。

講座の内容を分かりやすくするために「ビジネスモデルアイディア発想法」という表現を使っていますが、先日、WEBプロデューサーという方から「いままでにないような斬新なビジネスモデルでイノベーションを起こしたいのですが、講座を受けることで、そういった新しいアイディアが浮かびますか」といった質問をいただきました。

その方は、もしかしたら次のようなことを考えられていたのかもしれません(「発明とは」でGoogle検索した結果)。

上記の意味のうち、1番目の「今までになかったものを新しく考え出すこと」ということを期待されての質問だったのでしょう。

実は、私がビジネスモデル・デザイナー®となる以前、全く同じようなことを考えていました。過去に存在しない、斬新で全く新しい技術や製品は創れないものかと、本気で考えていました。

ただ、ビジネスモデルのアイディアの考え方というのは、実はそうではない、というのが、ビジネスモデル・デザイナー®となって初めてわかりました。

今回は、ビジネスモデルを創る上で、「発明」の意味で言う「今までになかったものを新しく考え出すこと」とどう異なるのか、考えてみたいと思います。

初代iPhoneの発表における「全てを変えてしまう新製品」の考え方

2007年、Apple社からiPhoneという製品が発表されて以来、スマートフォンというデバイスを入口にした多くのサービスが登場し、あらたな経済圏が形成されまれました。

いったいスティーブ・ジョブズは、iPhoneというデバイスをどのように思いついたのでしょうか。

製品発表のとき、ジョブズは前口上として、「数年に一度、全てを変えてしまう新製品が現れる」と述べた後、「本日、革命的な3つの新製品を発表します」と言いながら、スクリーン上に次の機能を示すアイコンを3つ、順番に表示します。

  1. Widescreen iPod with touche controls(タッチ操作のワイド画面iPod)
  2. Revolutionary mobile phone(革新的な携帯電話)
  3. Breakthrough Internet communicator(画期的なインターネット通信機器)

そして、「iPod、phone and internet communicator」をゆっくり繰り返しながら、これら3つの新製品について、次のように述べます。

これらは独立した3つの機器ではありません。
これは1つの製品なのです。
わたしたちはこれを「iPhone」と名付けます。

ここでジョブズは、iPhoneというプロダクトについて、「神が降りてきた」みたいなことは一言も述べていませんね。

iPhoneについて「全てを変えてしまう新製品」と紹介しながらも、ジョブズが導入として紹介したのは、音楽プレイヤー、携帯電話、インターネット通信機器といった、すでに世の中に存在しているものばかりです。そして、これら3つを組み合わせたものがiPhoneであると発表しているのです。

アイディアとは既存の要素の組み合わせ

アイディアに関する本が沢山出ていますが、アイディア発想本として多くのクリエイターのバイブルとなっている本の一つに、ジェームズ・ウェブ・ヤング(1886-1973)『アイデアのつくり方』があります。

この本は1940年に出版されたものですが、帯に「60分で読めるけれど一生あなたを離さない本」とあるように、ページ数は少ないものの、21世紀になってからも多くの人に読み継がれています。

その本の中で、iPhoneの発表と同じようなことを、ヤングはアイディアの定義として、次のように述べています。

即ち、アイディアとは既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもないということである。

21世紀に入り、画期的と呼ばれる様々なプロダクトやサービスが生まれています。ただ、そういった画期的で新しいものは、iPhoneが音楽プレイヤーと携帯電話とインターネット通信機器の組み合わせて生まれたように、例えば空き部屋とホテルの組み合わせや、車で移動する一般人とタクシー配送業の組み合わせで生まれたアイディアなのです。

アイディアソンでのブレスト例

「ハッカソン(hackathon)」というイベントがあります。この言葉は、ハック( hack)とマラソン(marathon)を組み合わせた造語ですが、ITエンジニアやデザイナー、プランナーなどが集まり、短期間で新たなサービスやシステム、アプリなどを共同開発し、成果を競い合うイベントのことを言います。GoogleやApple、Facebookといった、世界的に有名なIT企業が開催したことで広まりり、最近では日本でも盛んに行われるようになりました。

ところで、ハッカソンの事前準備として、参加者間でのブレーンストーミングでアイディア出しを行います。この工程のみを抽出する形でのイベントが次第に開催されるようになり、大元の「ハッカソン」という名称にちなみ、アイディア(idea)とマラソン(marathon)を組み合わせた「アイディアソン(ideathon)」という造語で呼ばれるようになりました。

アイディアソンにおいて、アイディア出しの手法はいくつかあるのですが、今回は「アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法 (一般書)」でも説明されている「かけ算ストーミング」を紹介します。

「かけ算ストーミング」は、イベントの冒頭に行われ、参加者同士が打ち解けるためのアイスブレイク的に用いられます。「アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法 (一般書)」でも紹介されていますが、やり方としては次の通りです。

  1. 参加者が2人一組のペアになる。
  2. 2種類の色の大判付箋紙と、A3サイズ程度の白い紙を用意する。
  3. お互いに色を決め、付箋紙を3枚ずつ取る。
  4. その付箋紙に、相手に見られないよう、好きな言葉(名詞)を1つずつ書く。
  5. 書き終わったら、お互いの付箋紙を縦・横に並べてマトリックスをつくる。

結果として、次のようなマトリックスが出来上がります。(図は「アイデアソン!: アイデアを実現する最強の方法 (一般書)」より引用)

このマトリックスの横軸にある「針金」「リモコン」「タオル」も、縦軸の「りんご」「お金」「真夏日」も、すでにこの世に存在している物(事)ばかりですね。

一方で、それらが交わるマス目には、両者を組み合わせた面白いアイディアが浮かんでいるのがわかります。

この例では3×3でアイディア出しを行っていますが、さらにアイディアを量産したければ、5×5、7×7と、縦軸と横軸を増やしたアイディアのマトリックスをつくり、それに合わせてマス目を埋めて行けば良いわけです。

アイディアのマトリックスでビジネスモデルを考える際のポイント

上記のマトリックスの中に「押すだけで課金されるリモコン」というのがあります。

いたずらのアイディアとしては確かにあっても良いのかもしれませんが、ビジネスでのアイディアとして、商品やサービスという位置づけにするのは、微妙なものがあります。

ビジネスモデルのアイディアを考える場合、やみくもにアイディアを出せば良いというわけではありません。事業というのは、サービスの流れや関わる人材、キャッシュポイントの設定、また法律までも含め、様々なルールの元で成り立っているからです。

一方で、そういったことを気にし始めると、思考面での柔軟性を失い、自由にアイディアを出すことが難しくなってしまいます。

そこで、ビジネスモデル・デザイナー®は、ビジネスでアイディアを出す際、自由な発想で思いついたキーワードに対し、あなたが得意な分野のビジネスモデルの事例を掛け合わせることを行います。ビジネスモデル・デザイナー®は、この手法を「アイディア核融合」と呼んでいます。

例えば、あなたが「価格.com」のような、価格比較サイトを運営する仕事をしていたとします。そこで「プール」というキーワードが思いついたとします。マトリックスにしてみると、次のようになります。

価格比較サイト
プール

さて、二つが交わるところは、いったい何が思いつくでしょう。

例えば、2017年「ナイトプール」が流行りました。ナイトプールを開いている店舗はたくさんあります。そこであなたは「ナイトプールの情報を整理し、価格やサービスなどの比較サイトを立ち上げる」といったアイディアを思いつくことができます。

これで、もし「価格比較サイト」のところが、「針金」とかだったらどうでしょう。パッと思い浮かべると、「プールに針金」という組み合わせがありますが、なにやら危険な感じがしてしまい、ビジネスには程遠くなってしまいます。

ビジネスモデルのアイディアを量産するには

アイディアソンでのブレーンストーミングでは、アイディアを沢山だす必要があります。ただ、ビジネスで考える場合、例えば普段の仕事での得意分野というと、一つあるいは二つ程度しかない方が多いのではないでしょか。

そこで、ビジネスモデル・デザイナー®は、アイディア核融合を行う際、次の7つの事業フォーマットを設定します。

  • 自家発電型事業フォーマット
  • プロデュース型事業フォーマット
  • 販売代行型事業フォーマット
  • マッチング型事業フォーマット
  • パッケージング型事業フォーマット
  • 価値転換型事業フォーマット
  • 情報整理型事業フォーマット
  • この事業フォーマットの考え方については、一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表 中山匡著「失敗をゼロにする 起業のバイブル」を参照しています。

一方で、縦軸はアイディアソンのキーワードと同様に、興味や関心のある分野を設定します。ここでは、先ほどの「プール」に加え、「飲食」というキーワードが浮かんだと仮定すると、マトリックスは次のような感じになります。

自家発電型事業フォーマット プロデュース型事業フォーマット 販売代行型事業フォーマット マッチング型事業フォーマット パッケージング型事業フォーマット 価値転換型事業フォーマット 情報整理型事業フォーマット
プール  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?
飲食  ?  ?  ?  ?  ?  ?  ?

私が開催しているアイディア発想講座で受講生の皆さんに考えていただく際は、時間の都合上、各キーワードに対して横軸は最低3つくらいの事業フォーマットでアイディアを出していただきます。

ただ、もし7つの事業フォーマットを考えられれば、ビジネスモデルのアイディアをいくらでも量産することができます。その中から、iPhoneのように、私たちの生活を「変えてしまう」ようなビジネスモデルが生まれることだってあるのです。(たった3人で始めたAirbnbはまさにその事例の一つと言えます。参考:「事例:Airbnbはリスクを最小限に抑えながらビジネスモデルを進化させている」)

最初にiPhoneで見たように、アイディアは決して「今までになかったもの」から生まれてきているわけではありません。アレクサンダー・グラハム・ベル(1847-1922)が電話を発明した当初、まさか音楽プレーヤーとインターネット通信機器が組み合わさるとは思わなかったでしょう。しかし21世紀に入り、スティーブ・ジョブズがそれを成し遂げ、世の中を変えるようなプロダクトとして世に出したのです。

ジェームス・ウェブ・ヤングが「アイディアとは既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない」と定義した1940年から現在に至るまで、アイディアの考え方は何も変わっていないのです。

「アイディア核融合」という手法にご興味のある方は、ぜひメール講座(ビジネスモデル・デザイナー®3級講座)を受講いただければと思います。(無料で受講いただけます。)