クリエイターが事業を継続するための脱「売り切り商売」

先日、大手メーカーにお勤めの女性の方から「ホームページクリエイターとして起業したいけれども、どういった点に注意すれば良いでしょうか」という相談を受けました。

その方は、大学でデザインを勉強したというわけではないのですが、会社の業務で自社のホームページを更新したり、ページの追加や、データベースの調整などを行っているうちに、「WEB制作のスキルが身に付いた」と言われていました。

最近ではWordpressでご自身のホームページを立ち上げ、Adobe PhotoshopやIllustratorを使って素材も作れるようになったそうで、作品自体も友人からも評判が良いので、起業を思いついたそうです。

こういう形で起業されるクリエイターの方は大変増えていますが、この状態で5年間続けている方というのは、とても少ないのが現状です。

継続が難しい要因として、クリエイターが自分の商品を売るときに成果物を納品するという形で「売り切り」にしてしまうことが主な原因の一つと考えています。

今回は、クリエイターが事業として継続させるために考えるべき点について、見てみたいと思います。

ホームページクリエイターが売上を上げる主な方法

例えばホームページ制作を事業の主軸に据えているクリエイターにとって、ホームページデータ一式が、売り上げを上げるための商品になります。

中にはデザインカンプや打合せ等を別途費用に含める方もいますが、いずれにせよ、基本的にはホームページデーターという成果物を納品し、クライアントに費用を請求し、報酬を得ることができます。

ただ、一度報酬を得てしまえば、それ以上の売買は発生しません。

仮に、毎月のホームページ更新作業を請け負うことができれば話は別です。毎月一定額で請け負い契約を結び、クライアントが出来ないような作業を、クライアントの代わりにやってあげるというものです。月々一定の収入が見込め、それが一年契約であれば、その年の売り上げを予測することもできるので、事業計画も立てやすくなります。

一方、ホームページ更新を請け負うことができない場合、収入を得るためには、ホームページを作りたい新規クライアントを常に探し回ることになります。

確かにホームページ制作の方が、金額的に月々の更新費用よりも高く設定できるので、そういったクライアントを常に見つけることができれば、売上はあがるでしょう。

20世紀後半、インターネットが登場した頃であれば、そういったクライアントは沢山見つかったのですが、2017年時点、ホームページ制作市場は成熟期に入っており、個人事業主のクリエイターが満足の行く金額でクライアントから制作を受注するというのは、とても厳しい状況と言えます。

2つの事業タイプ:「フロー」と「ストック」

前段で見たように、ホームページクリエイターにとっての収益の柱は、大きく分けて次の2つになります。

  • ホームページ制作
  • ホームページ更新

ホームページ制作の方は、その都度クライアントを見つけ、ホームページを売ります。金額的にはホームページ更新よりも高いのですが、納品すればそれで取引終了となるため、集客力があることが必要になります。

一方、ホームページ更新の方は、金額的にはホームページ制作よりは安くなりますが、毎月幾らという形での更新費用で、期間も何年間という形で契約する場合が多いです。

これらのビジネススタイルについて、前者はその都度獲物を狩るイメージからフロー型、後者は定期的に収入を得ることができるイメージからストック型と呼ばれることがあります。

フロー型ビジネス

フロー型ビジネスは、都度で顧客から案件を獲得し、収益を上げることから、「狩猟」にたとえられる事業タイプです。

仕事を都度で受注するため、売上をグラフに表すと次のような形になります。

グラフからわかるように、ある月は売り上げが高く、ある月は売上0の場合があります。フロー型が「狩猟」に例えられるのは、この点にあります。

狩猟の現場において、獲物(顧客)がいつもいるとは限りませんし、集客(狩猟)能力にも影響されます。瞬間的に獲物の群れを見つけ、獲得できたとしても、長期的に見ると不確実な状況に置かれていることに変わりはなく、安定的に食物を得ることは難しいと言えます。

ストック型ビジネス

ホームページの更新については、顧客との継続的な関係の中で、毎月の作業に対して一定の金額で請け負い、定期的に収益を上げることから、「農耕」にたとえられる事業タイプです。

決められた仕事を定期的に受注するため、売上をグラフに表すと次のような形になります。

フロー型ビジネスに比べてグラフの値は高くありませんが、毎月一定の額が入ってきます。たとえその月に案件を得られなかったとしても、月の売上がゼロにならないことから、光熱費や通信費など、毎月の経費の支払いにも困ることはありません。

「狩猟」と比べ、「農耕」は手間がかかり、地道な作業の連続になりますが、安定的に収益が確保できます。食物(収入)も計算して得られることから、「農耕」の暮らしでは、安心して家族を養う(事業を営む)ことができます。

ストックビジネスで有名な大竹啓裕氏は『ストックビジネスの教科書』で次のように述べています。

ストックとは、「継続的に利益をもたらすもの」のことである。

もし単発プロジェクトというのであれば、フロー型が適していますが、事業というのは継続させなければなりません。ましてや、法人化し、社員を雇うとなると、その人たちの生活を維持するために、会社を安定的・継続的に営む必要があります。

事業を営むということは、フロー型ではなく、ストック型としてビジネスを設計する必要があると言えます。

フロー型ビジネスをストック化した例

フロー型ビジネスは、常に商品を売り続けなければなりませんが、そこから脱却し、安定性・継続性を得るために、ストック型ビジネスに移行した例を見てみましょう。

「本を買うこと」を会員制にしたダイレクト出版

リアルであれ、ネットであれ、あなたが本屋を営むとします。

人気作家が話題の本を出し、それを自分の本屋で売れば、その時は売り上げが伸びると思います。しかし、来月も同じように売れるとは限りません。別の人気作家が本を出してくれればよいのですが、出さないかもしれませんし、売れないかもしれません。

雑誌のように定期的に出されるものが売れていれば、まだ経営は安定しますが、多くの雑誌が閉刊に追い込まれています。

この点で、本屋のビジネスは、安定性が見込めず、売上の予測が難しいフロー型ということになります。

このフロー型の書籍販売を、ストック型したのがビジネス書で有名なダイレクト出版が提供している「月刊ビジネス選書」サービスです。

  • 年会費35,760円(2017年10月現在では、テスト販売価格29,800円)
  • 好きな本を5冊読める
  • 毎月ビジネス書の新刊が届く
  • 電子書籍読み放題

同じだけの書籍を読んだ場合の比較が、ダイレクト出版のホームページに掲載されていたので、以下に引用します。

ビジネスというのは、時代のトレンドに左右されるため、常に新しい情報に更新する必要があります。ましてや、それが海外での最新事例をいち早く翻訳されたものが毎月届き、しかも他のビジネス書も読め、会費以上の恩恵を得られるということであれば、会員になるメリットはあるでしょう。

映像ソフトを都度レンタルあるいは購入するという考えを、月額制見放題に変えた動画配信サービス

ビデオデッキが家庭に普及し、レンタルビデオサービスが始まったことで、多くの映画館が閉館に追い込まれましたが、それと同じことが、動画配信サービスの出現により、ビデオやDVDを販売する業界で起こっています。

以下、一般社団法人日本映像ソフト協会の調査報告を見てみましょう。(参考:「ビデオソフトの売上金額の推移グラフ」より)

2004年あたりが、ビデオカセットとDVDビデオのピークでしたが、以後縮小し、2007年にビデオデッキ単体が生産終了になると、以後はDVDとブルーレイがしばらく続きます。

2011年、アメリカのHulu社が日本に上陸しましたが、それほど影響は見られなかったものに、2014年以後、徐々に減少し、2016年には、1988年の頃と同じくらいの規模に縮小しています。

要因として、2014年にPlayStation🄬 4やAmazon Fire TV、2015年に第4世代Apple TVなどのハードウェアが発売されたり、2015年にはHuluの日本での登録者数が100万人を突破、同年にアメリカのNetflix社が日本でサービスを開始したことが考えられます。

サービス内容を見てみると、レンタルビデオ屋の不便さを見事に解消しています。

  • 月額料金内でコンテンツ見放題
  • ネット環境があればどこでも閲覧可能
  • テレビだけでなく、スマートフォンやタブレット、PCで閲覧でき、コンテンツを持ち出せる
  • 「貸し出し中」ということが無い
  • 「借りに行く」必要が無い

参考までにNetflixの視聴プランを以下に引用します。

もしレンタルビデオ屋が上記のようなサービス内容を提供しようとしても、在庫スペースを確保するのは物理的に不可能であり、24時間営業をし、それを全国展開するとなると、上記のような価格帯で勝負するには無理が出てきます。また、ユーザー側もストリーミングでの配信スタイルに移行しつつあり、既存のビデオレンタルサービス業者もこのストック型ビジネスモデルを追従していることから、ビデオレンタル業界の標準となりつつあります。

「下請け」商売はストック型とは言えない

よく「下請けは定期的に収入が入ってくるので、ストック型ビジネスではないのか?」と質問されます。

クリエイターが起業される場合、元の会社の下請け業者として独立・起業される方が多いようです。そういう方々は起業直後から毎月定期的に収益があげられるため、一見ストック型と思えます。

しかし、もし仮に元請けがあなたよりももっと安くて品質の良い業者を見つけた場合、あなたは簡単に切られてしまうかもしれません。また元請けが倒産してしまえば、そこで収入は途絶えます。

つまり、「下請け」という状態は、フロー型同様、予測不可能な事態にいつ陥るかわからないという点で、ストック型とは言えないのです。自分の事業をストック化するということは、事業そのものが自分の管理下におかれ、他の不確定な要因に左右されないことが重要です。

ストックビジネスの大切な定義として、大竹啓裕氏は次のように述べています。

「ストックビジネス」の定義で最も重要なのは、あなた自身がそのビジネスのオーナーであるということです。

ビジネスのオーナーであること、つまり自分が下請けや孫請けではなく、「自分の事業を自分の努力次第で伸ばすことができる」ことが、ストック型ビジネスの条件と言えます。

クリエイティブ系ビジネスでフロー型からストック型に移行した例

そうは言っても、クリエイターが収益を得るために売る商品は、主に「イラスト」や「ホームページ」など、顧客の手に渡ってしまえば、それ以降報酬を得ることが難しい成果物が多いです。アプリ開発でもiOSアプリやAndroidアプリなど、一度購入したユーザーから何度も課金するような販売形態はとられていないのが現状です。

では、クリエイティブ系ビジネスで、フロー型からストック型に移行したものが無いかといえば、そんなことはありません。

たとえば、写真やイラスト、動画など、様々なコンテンツ素材をネットでダウンロード販売するサービスとして、ShutterstockPIXTA素材辞典などがあります。それらのサービスは画像1点何円という売り方を残しながら、定額プランのような形で、月額何点まで何円というサブスクリプションプランを設けてあります。

参考までにPIXTAのサブスクリプションプランの内訳を以下に引用します。

多くのウェブサイトや印刷物を扱う制作会社側にしてみれば、単体で購入するよりも安く済み、かつ素材を提供する会社側も毎月定額が入ってくるため、事業としても安定します。売り切りではなく、サブスクリプションプランにすることで、ストック型に移行できた事例と言えるでしょう。

また、ソフトウェア販売でも、Adobe社がCreative Suiteを終了し、Creative Cloudに一本化したり、Microsoft社もOffice 365を主力とするなど、サブスクリプションプランというストック型ビジネスに移行しています。

クリエイターの方は自分でいろいろなものを創造することができてしまいます。ただ、すぐに形になる分、売れておしまいというケースが多いように思われます。

一人で起業といっても個人事業主になるわけですから、事業を安定化・継続化させないと、あっという間に廃業となってしまいます。まだストック型ビジネスに移行できていないクリエイターの方は、どうすれば自分の商品を安定的・継続的に売れるようになるのか、考えてみると良いでしょう。