事例:アパレル業界で「日本のものづくり」を世界に売るファクトリエ

2017年10月17日、東京愛宕ロータリークラブが開催する創業支援塾にて、基調講演にライフスタイルアクセント株式会社の山田敏夫社長が登壇されました。そこでファクトリエに関するお話が大変興味深く、とても共感できる内容でしたので、ビジネスモデル研究として紹介させていただきます。

  • 本ビジネスモデル研究については、一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表 中山匡著「失敗をゼロにする 起業のバイブル」を元に、ビジネスモデル・デザイナー®認定講師が行っています。

ファクトリエのビジネスモデルは「プロデュース型事業フォーマット」

ファクトリエが扱う商品は衣類や服飾雑貨ですが、自分のところで洋服を製造しているわけではありません。

大手アパレルメーカーも、実際には自分の工場で全て製造しているわけではなく、下請けに発注しています。

両社の大きな違いとして、大手アパレルメーカーが扱う商品からどの下請け会社が作ったか一切わかりませんが、ファクトリエの商品には、製造している工場がすぐにわかるよう、ブランドを最も象徴的に示す洋風のタグに、ファクトリエのロゴと一緒に、工場の名前を並べています

上記写真では、「BY UTO」という文字が株式会社ユーティーオーの製造であることを表しています。

また、ファクトリエサイトの商品販売ページでは、商品説明と一緒に、この商品が株式会社ユーティーオーの製造であることを「FACTORY」という項目で説明し、それがそのまま製品の品質を伝えるようなコンテンツになっています。(ファクトリエ「育てるホワイトカシミヤニット Vネック/サンド」より)

この時、ファクトリエは、自社でカシミヤニットを開発するのではなく、優れた技術を持っている工場を見つけ、そこの商品をプロデュースする形で販売していることになります。

その時、商品やサービス、お金の流れは以下のようになります。

ファクトリエの商品を製造する工場は、どれも大変優れた技術を持っています。しかし、大手アパレルメーカーの下請けという立場になると、優れた技術は元請けのものとして消費者は認識することになり、下請け工場の「ものづくり」は、残念ながら埋もれてしまうことになります。

では、それら下請け工場が、一般消費者に売るための販路を自分たちで開拓できるかといえば、それも難しいでしょう。商品を売るというのは、単に陳列すれば買ってもらえるわけではありません。お客様に来てもらえるよう、広告を出し、商品の良さを伝え、取引を行い、アフターフォローまでする必要があります。しかし、職人がそこまでできるスキルを持っているわけではありません。日本の「ものづくり」がなかなか広まらないのもその点にあります。

ファクトリエは、そういった優れた技術を持つ工場を見つけ、単に販売を代行するだけでなく、それらの工場の「ものづくり」を、その工場独自のファクトリ―ブランドという形でプロデュースしているのです。そして、服飾という商品を通じ、日本の「ものづくり」を統合した場として、ファクトリエというブランドを確立していると言えます。

ファクトリエの直営店ではフィッティングしかできない!?

ところで、次の写真は、銀座にあるファクトリエ直営店の店内です。

雰囲気はいたって普通の洋服屋さんですが、商品をその場で買い、家に持って帰ることができません。

一体どういうことか・・・

そもそもディスプレイされている商品は何かというと、あくまでもフィッティングするためだけの商品サンプルという扱いのようです。(店舗が「銀座フィッティングスペース」と名づけられているのもそのためです。)

そして、フィッティングし、気に入った商品を見つけたら、次のようにその商品を購入します。(引用:ファクトリエ「銀座フィッティングスペースのご案内」)

「銀座フィッティングスペース」では、ファクトリエの全商品・サイズを試着でき、設置されたタブレットで購入することもできます。

ご注文商品は後日郵送でご自宅までお届けします。工場で使われている素材や機器も展示された、工場・職人の息吹を感じられるスペースで、ゆっくりと商品をお試しください。

ここで言っている「タブレットで購入」ですが、これは簡単に言えばネット上に用意されたショッピングカートです。

つまり、店舗に行き、気に入った商品を購入しようと思ったら、その場で現金を出して購入するのではなく、タブレットで購入手続きを取り、実際に購入した商品は、「後日郵送」とあるように、その商品を作った工場から自宅宛てに直接送られてくるシステムとなっています。

ネットでの購入が当たり前になった時代だから「後日配送」でもOK

ファクトリエの販売形態は、ある意味リアル店舗とネットショップの融合とも言えます。

ところで、ファクトリエが販売する商品の価格帯を見てみると、決して安くはありません。例えば、ボートネックカットソーは次のような価格帯です。(ファクトリエ「Tシャツ」より)

他社商品と比較してみると、2017年12月時点で、ユニクロの「ボーダーボートネックT(長袖)」が1,500円(税抜)なので、単純に10倍の価格ということになります。

ファクトリエのボートネックカットソーを高いと思うかどうか・・・実際にこの商品をフィッティングルームに行って触って欲しいのですが、ファストファッション店で売られているカットソーの肌触りとは別次元です(一瞬でわかります)。「コットンってこんなにふわふわなの!?」と驚いてしまい、この価格設定でも適正だと感じてしまいました。

洋服については、オーダーメイドを注文する顧客の場合、仕上がりまでの期間を考慮して店舗に訪れます。身に着けるものにこだわりを持つ顧客はそんなに焦って買い物はせず、むしろかさばる荷物がきちんと梱包されて自宅に届く方が良いでしょう。

さらに、山田社長が基調講演でお話しされていましたが、ネットショッピングが当たり前になった現在、商品到着まで待つというプロセスが習慣化されてきたというのも、このシステムが受け入れられている一つの要因とも言えます。

リアル店舗が果たす役割と、ネットショッピングの備える機能が、とてもバランスよく融合されている販売システムだと思います。

ファクトリエが販売する商品を通じ、人々が買っているのは「日本のものづくり」

ファクトリエのサイトには「あの人のストーリーを聞きに。」というコーナーがありますが、そこで山田社長と一緒に写真に写っている方々は、業界を代表する著名人ばかりです。

また、「VOICE」というコーナーでは、それらの著名人が一消費者としてファクトリエの商品の良さを語っています。

彼らの言葉から読み取れるのは、ファクトリエの洋服が「おしゃれだから」とか「品質が良いから」だけではありません。「ABOUT US」で語られている山田社長の次のような世界を実現したいという想いへの共感です。

大手メーカーの下請けとして事業を行っている工場は、厳しい品質基準を求められながらも、なんとか食べていける程度の価格で取引を余儀なくされています。工場の職人たちがどんなに優れた技術を持っていたとしても、それは大手メーカーの技術として市場に認知されています。

山田社長は、優れた技術を持っている工場を自ら探し、その商品を適正価格で販売できるような仕組みに精力を注がれています。そして、「MADE IN JAPAN」の品質を提供する工場が、自らファクトリ―ブランドとして確立できるよう、「ファクトリエ」という場を提供していると言えます。

ここで思い出されるのは、当サイトで度々引用しているサイモン・シネックのゴールデンサークル理論です。

単に洋服を売りたいのであれば、「WHAT:洋服」を「HOW:店舗で(あるいはネットで)」売れば良いだけです。しかし、「WHY」がなければ、人々はその洋服屋で買う必然性を見出せません。

ファクトリエの場合、“日本のものづくりを世界に発信する”という、山田社長の強烈な「WHY」があります。そして「HOW:ネットおよび工場」を通じて、「WHAT:洋服」を売っているのです。

ファストファッションに慣れた消費者にとって、ファクトリエの商品は安くはありません。しかし、製品へのこだわりを持つ人にしてみれば、その商品を自分が買うことで、工場存続へも直結します。そして、山田社長の「WHY」への共感とともに、ファクトリエを通じて「MADE IN JAPAN」を一緒にプロデュースすることにもなるのです。

簡単でスマートに見えるけれども、実は熱意や想いで溢れているファクトリエのビジネスモデル

ただ、山田社長の講演を聞くと、ここまでの道のりはとても険しいものだったと思われます。

例えば、良い技術を持った工場を探すのも、有名だからとか、知人から紹介されたというわけではありません。山田社長自ら工場のある土地に行き、駅で電話帳を広げ、アポをとり、ものすごい数の工場を見学されたそうです。

その経験を通じて養われた判断基準は、単にその工場の技術力だけではなく、社員の人柄や工場内の整理整頓、トイレの状態まで含まれます。そして、それら全てをクリアした工場だけがファクトリエと提携でき、「MADE IN JAPAN」の洋服を売ることができるのです。

また、工場側も山田社長の想いに共感されたからこそ、提携しようとしたのだと思います。工場経営者の写真を見る限り、山田社長より年上の方が多く、そういった経営者の信頼を得るのは並大抵のことではできないでしょう。

私の経験になりますが、プロデュース型事業フォーマットのビジネスモデルは、一見すると簡単に真似できそうですが、プロデュースする側(ここではファクトリエ)の熱意や想いが伝わらない限り、プロデュースされる側(工場)も一緒に提携しようと思いません

プロデュース型事業フォーマットのアイディアというのは、誰でも思いつきます。ただ、そのアイディアを実現するために、行動できる人というのはやはり限られているのが実情です。

私がファクトリエのビジネスモデルを知った創業支援塾に参加されていた学生の方々と話す機会があったのですが、感想を伺ったところ、山田社長の話に共感したものの、自分が同じようにできるかといえば「難しいですね」と答えられていたのも納得できます。