事例:「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルはどうして破綻したのか

※上記写真はテレビ東京 ワールドビジネスサテライトにて「スマートデイズ被害者の会」が取り上げられた時の映像の一部です。

今回のレポートは、「かぼちゃの馬車」というスマートデイズ社が販売・運営するシェアハウスを活用したビジネスモデルです。

この「かぼちゃの馬車」という名称のシェアハウス型ビジネスモデルは、地方出身の若い女性に住居を無償で提供し、女性の自立支援を促すことを理念に掲げたものです。家賃0円という、不動産運用としてはかなり斬新な収益設計ですが、多くの不動産投資家や不動産オーナーを惹きつけることに成功し、スマートデイズ社は2015年頃より都内で急速に拡大し、急成長を遂げました。

ところが、2017年あたりから、このビジネスモデルは雲行きが怪しくなります。

多くのメディアでも取り上げられていますが、スマートデイズ社は、2017年10月下旬に業績悪化に伴う物件オーナーへの賃料減額請求を通知し、さらに2018年1月、物件オーナへの賃料支払いを停止したのです。

物件オーナーは、一人当たり1億から3億、多い方だと6億円の30年ローンをスルガ銀行で組んでいますが、普通のサラリーマンが億単位のローンを抱えたまま、突然、「今月から賃料払いません」と告げられる事態に陥ったわけです。

スマートデイズ社と契約したオーナーは700~800名いるようですが、オーナーの方は、日本の上場企業や海外の有名企業にお勤めのサラリーマンが多いそうです。

なぜそのような優秀な方々が、数年で破綻するようなビジネスモデルを掲げる会社と30年に渡って契約を結んでしまったのか・・・スマートデイズや間に入っている販売業者は、いわゆる中小企業です。そのくらいの会社規模の営業担当に”おいしい”不動産投資話をもちかけられても、簡単に騙されるような方々ではないと思うのですが・・・

ただ、NOOK代表杉崎が運営に関わっている「サブリース問題解決センター」にて、スマートデイズ社の事例分析セミナーを開催する機会があったのですが、被害者の方にお聞きしたところ、スマートデイズ側の対応に激しい憤りを感じているものの、不思議なことに、この女性支援型ビジネスモデルについて、悪い印象を持たれていないようです。

多くのメディアでは、2018年1月以降のスマートデイズ社の悪い対応ばかり取り上げられていますが、優秀なサラリーマンや不動産投資家たちを引き付けたビジネスモデルがほとんど取り上げられていないのは少し不思議な気がします。

そこで今回は、スマートデイズ社のビジネスモデルがいったいどののようなものだったのか、そしてどうして破綻に至ったのか、考察してみたいと思います。

そもそも会社勤めで忙しいサラリーマンが、なぜシェアハウスを運営できるのか

スマートデイズ社のシェアハウス「かぼちゃの馬車」のオーナーの多くは、普段は仕事を持ってるサラリーマンです。

シェアハウス運営というと、シャワーやトイレの清掃や消耗品の交換など、大家さんがやらなきゃいけない定期的な管理業務というのがあるわけですが、普通に考えると、平日会社勤めしながら大家さんの管理業務を行うのは大変でしょう。

なぜ、そういった人たちがシェアハウスのオーナーになれるかというと、「サブリース」という仕組みを活用しているからです。

以下に不動産物件の運営の仕組みを、直接物件を管理している大家さんの場合と、サブリースで運用する場合で、両者を比較しながら見てみたいと思います。

いわゆる大家さんが自分の物件を運用する場合

アパート経営のスタイルとして一般的に知られているのが、以下のような形態でしょう。

物件オーナーである大家さんは入居者と直接賃貸契約を結んだ後、入居者に部屋やサービスを提供し、入居者は大家さんに家賃を支払うというシンプルな仕組みです。

この形態で運用する場合、入居者の生活に支障をきたすことがないよう、通路の清掃や物件の破損箇所の点検、さらに修理業者等への依頼など、オーナー自ら行うことになります。

仮に会社勤めしながらこの形態で不動産運用を行うとすると、週末だけなら頑張ればなんとかなると思いますが、例えば平日の昼間、突然の天災で物件が破損し、入居者から苦情が入った場合、急遽会社を休んで現場を確認し、業者を手配するといった対応が必要になったりします。やはり普通のサラリーマンではなかなか難しいですね。

そこで、サブリースという制度を活用することになります。

サブリースで物件を運用する場合

会社勤めしながら物件を運用している多くのオーナーは、以下のようなサブリースという転貸借の仕組みを活用しています。

サブリースオーナーは、自分の物件の管理業務をサブリース会社に委託します。サブリース会社は、入居者が支障なく生活できるよう、物件の管理業務を行います。

この時、入居者が賃貸借契約を結ぶのはサブリース会社となります。つまり、入居者にとっての「大家さん」はサブリース会社です。

一方、サブリースオーナーはサブリース会社と賃貸借契約を結びます。この時、サブリース会社は契約上「入居者」となり、サブリースオーナーが「大家さん」となりますが、支払われる賃料は、サブリース会社が賃貸借契約を結んでいる入居者から得た賃料から管理手数料等を引いた金額になります。

このように、サブリース制度というのは、オーナー自ら物件を管理しなくても、不動産の運用ができるというものです。会社勤めしながら物件オーナーになったとしても、サブリース会社が一部の手数料で入居者にサービスを提供してくれるので、安心して普段の仕事に専念できます。また契約によっては、空室であってもサブリース会社が家賃を保証してくれるので、空室リスクの心配もありません。

このサブリース制度については、スマートデイズ社に限ったものではなく、レオパレス21や大東建託、大和ハウスなど、大手不動産会社も積極的に活用しています。ただ、大手不動産会社のサブリースは、入居者から賃料収入を得て、そこからオーナーに賃料を支払うというビジネスモデルであるのに対し、「かぼちゃの馬車」の特殊性は、入居者から賃料を取らずに収入を得ることを目指していた点にあります。

「かぼちゃの馬車」は「家賃0円」で入居できるシェアハウス!?

スマートデイズ社前社長の大地則幸氏は、著書「「家賃0円・空室有」でも儲かる不動産投資―――脱・不動産事業の発想から生まれた新ビジネスモデル」にて「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルを丁寧に解説しています。

書籍を参照しながら、大地氏が目指す「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルを見てみると、サービスとお金の流れは次のように描くことができます。

最初にサブリースを説明した図と比較するとわかりますが、入居者からスマートデイズ社への「¥家賃」の矢印がありません。つまり、入居者は家賃を支払うことなく、シェアハウスに住むことができるというサービスのようです。

「かぼちゃの馬車」の特徴の一つに、シェアハウスに入居できるのは地方出身の女性に限定されています。そういった女性たちに対して、どうして住居を無償提供するのかというと、スマートデイズ社が、地方から上京してきた女性を支援し、都会での自立を促すという理念を掲げているからです。

とても素晴らしい理念で、共感する方もたくさんいらっしゃるでしょう。

しかし、このままだとスマートデイズ社が得る賃料収入もゼロになってしまい、管理費用を引いた賃料をオーナーへ支払うことができません。そこで収益の軸として説明されているのが「家賃外収入」という考え方です。

「かぼちゃの馬車」に住む地方出身の女性は、入居者ではなく「〇〇」

大地氏の書籍によると、「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルにおいて、入居者である地方出身の若い女性は、入居者としてではなく、次の3つのタイプとして設定されます。

  • 就職希望者
  • 試供品・アンケートモニター
  • 婚活パーティー参加者

従来であれば賃料収入をもたらす入居者ですが、「地方出身の若い女性」という属性に着目し、別の価値を見出して収益を上げるビジネスモデルを設計したのです(価値転換型事業フォーマット)。

では、この3つのタイプのビジネスモデルを見てみます。

入居者は「就職希望者」

スマートデイズ社の主力事業は不動産ビジネスですが、複数の企業と提携しながら、入居者である地方出身の若い女性を、それらの企業に社員として紹介するという、人材紹介ビジネスを行っているようです。そして、企業と女性のマッチングが上手くいくと、紹介手数料として、その企業からこれから社員として働く女性の年収の25%をもらうという仕組みをとっているそうです。

確かにスマートデイズ社の事業内容を見ると「有料職業紹介事業許可番号」を取得しているのがわかります(スマートデイズ社ホームページ会社概要より)。

このビジネスモデルの収支ですが、大地氏の書籍によると、以下のような収支設計となるそうです。

  • シェアハウスから得られる一人当たりの年間家賃60万円と想定
  • 一方、人材紹介時の紹介手数料は、年収300万円 × 25% = 75万円
  • 差額を計算すると、年間家賃より紹介手数料の方が、15万円多い

つまり、通常の不動産運用による賃料ビジネスよりも、提携企業と入居者とのマッチングビジネスの方が、1年間あたり多く収入が得られるという計算です。仮に1棟10部屋のシェアハウスの場合、満室だと、賃料収入は年間600万円だけれども、人材紹介だと750万円と、150万円多く収入が得られることになります。

入居者は試供品・化粧品アンケートの「モニター」

入居者は地方出身の若い女性であり、マーケティングでいうF1層にあたります。そこに着眼したスマートデイズ社は、若い女性をターゲットにした商品を開発・販売する企業と提携し、彼女たちにアンケートモニターになってもらうというビジネスモデルを設計しています。

入居者は、様々な試供品を貰いながら、かわりにアンケートに答える一方、提携企業側はF1層の貴重な意見を入手でき、商品開発に活かすことができます。

これもマッチング型事業フォーマットですが、入居者の層をうまく活用したビジネスモデルだと思います。

入居者は「婚活パーティー参加者」

男女の出会いの場を企画している企業と提携し、入居者を婚活パーティーの参加者として紹介するというビジネスモデルです。

このとき、入居者の女性は決して強制されるわけではなく、希望者のみの参加となるそうですが、このビジネスモデルもマッチング型事業フォーマットの典型といえます。

このように、地方出身の若い女性という部分に着眼し、「家賃外収入」として3つの柱を考えた、大変面白いビジネスモデルですが、スマートデイズ社は単に金儲けが目的というわけではなく、女性の自立支援という強い理念があり、その想いを込めて付けられた名称が「かぼちゃの馬車」なのです。

スマートデイズ社の理念は「シンデレラストーリー」

「かぼちゃの馬車」というサービス名称は、有名な童話「シンデレラ (字幕版)」から引用されたものです。

スマートデイズ社は、入居者である地方出身の若い女性をシンデレラにたとえ、スマートデイズ社が提供する「かぼちゃの馬車」に乗れば、都会で自立した女性になれるというシナリオを描いたのです。

スマートデイズ社は、支援する入居者の負担をなくすよう、理念に共感してくれる提携企業から「家賃外収入」を得る形をとり、そこを収益の柱としました。そして、主力の不動産業であるサブリース会社としては、その「家賃外収入」から手数料を引く形で、サブリースオーナーへ「賃料」として支払うというビジネスモデルを設計したのです。

これらの全体を図に示すと、以下のようなシンデレラストーリの完成図ができあがります。

ただ、大地氏の書籍によると、このビジネスモデルは、スマートデイズ社の完全オリジナルというわけではなく、参照したビジネスモデルがあることが語られています。

「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルはGoogleやYoutubeと同じ!?

サブリース会社としては、斬新なビジネスモデルですが、大地氏は、自分の書籍の中で「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルを発想する際に参照した文献として、クリス・アンダーソンの「フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略」を紹介しています。

大地氏はこの書籍を紹介しながら、無料でサービスを提供しても、きちんと収益を上げられるビジネスモデルが世の中に存在することを述べています。

例えば、Googleは世界中のインターネットユーザーに検索サービスを無料で提供していますが、その検索結果に表示される広告スペースを設け、そのスペースを企業に有料で提供し、収益を得ています。以下に広告ビジネスモデルのサービスとお金の流れを示します。

消費者であるインターネットユーザーは、Googleの検索サービスを無料で利用できます。Googleはその検索サービスの結果画面上にスペースを設け、企業に対し広告スペースとして有料で提供し、消費者がクリックすると、Google側に支払いが発生するという仕組みです。

このようなビジネスモデルに似た形で、スマートデイズ社は「かぼちゃの馬車」を設計したようです。

ただ、結果として、Googleは検索エンジンプラットフォームとして今も成長し続ける一方、スマートデイズ社は数年で経営破綻してしまいました。一見すると、Googleのビジネスモデルを真似したのだから、成功は確実だろうと思えてしまうのですが、スマートデイズ社が経営破綻追い込まれた以上、シェアハウスのビジネスモデルは「失敗」と言わざるを得ません。。

このビジネスモデルの破綻原因を探る一つのポイントとして、Googleが作ったようなインターネット広告のビジネスモデルでのコンバージョン率にあると考えています。

インターネットビジネスと不動産ビジネスでは、目標コンバージョン率が大きく異なる

インターネット広告におけるコンバージョン率(たとえば、広告をクリックし、実際に問い合わせや注文がある割合)は、2~3%と言われています。中には30~40%達成する場合もありますが、いずれにしても半分にも満たないという感じです。

一方、不動産ビジネスの場合、コンバージョンの設定は様々ですが、ここでは、物件運用で最も重要な「入居率」と考えてみます。

大地氏の書籍によれば「かぼちゃの馬車」の入居率は9割と語られています。

おそらく、その数字を読んだ不動産投資家やサブリースオーナー、あるいは提携企業は、「スマートデイズ社は客付けがかなり優秀」と思うでしょう。

しかし、2018年1月にスマートデイズ社が賃料支払いを停止した際、「かぼちゃの馬車」の実際の入居率の発表がありました。書籍で大地氏が語っていた数字には程遠く、入居率わずか4割程度だったそうです。

この4割という数値をどのように判断するかです。

Googleのようなビジネスモデルでは、コンバージョン率としてまずまずだと思います。しかし不動産ビジネスの場合、例えば10部屋中4部屋しか入居しておらず、6部屋空室という状態が続いている物件は、やはり苦しいと言わざるをえません(不動産ビジネスでは、アパート一棟を運用する場合、入居率8割でトントン、利益を出すには満室経営を目指すと言われているようです)。

さらにスマートデイズ社の場合、もし「家賃外収入」の収益を、大地氏が書籍で語っている入居率9割で計算していたとすると、実際の入居率4割から得られる「家賃外収入」は半分以下となり、経営は成り立たないでしょう。

不動産はリアルなビジネスであり、バーチャルな世界を簡単には持ち込めなかった

大地氏が参照したようなビジネスモデルは、インターネットのバーチャルな世界を軸として展開したものがほとんどです。その世界では、物理的な投資にかかる費用負担が少ないため、高い利益率を見込め、インターネットさえあれば世界中に展開することも可能です。

一方、不動産ビジネスは、土地と建物というリアルな世界への初期投資がどうしても必要となり、その金額も膨大です(都心ですと、なおさらですね)。さらに、バーチャルな世界にはありえない物件に対する日々のメンテナンスや、10年~15年毎に行う大規模修繕費用も考えなければいけませんので、インターネット上のビジネスとは、収益設計が明らかに異なっています

確かにスマートデイズ社のようなサブリースの場合、土地と建物の費用負担はオーナー側が負うため、サブリース会社側の初期負担はほとんどないわけです。しかしながら、運用が始まった段階で、オーナーへの毎月の賃料支払いが発生しますが、破綻で明らかになった入居率4割で得られる「家賃外収入」では、オーナーへの毎月の賃料は相当苦しかったのではないでしょうか。(サブリースの場合、たとえ空室があったとしても、契約上、オーナーへはすべての部屋分の賃料を支払わなければいけません。)

地方から上京してきた女性に「住まい × 仕事」を提供し、都会での自立を促すというのは、とても素晴らしい理念だと思います。本当に「シンデレラ」になれた女性が少しでもいることを望みますが、スマートデイズ社の経営破綻を見る限り、大地氏が書籍で語る「かぼちゃの馬車」のビジネスモデル自体、今の不動産業界とはあまり馴染まなかったと言えます。それを裏付けるかのように、スマートデイズ社のビジネスモデルを真似てシェアハウス事業を展開した数社のサブリース会社は、スマートデイズ社と同じタイミングで、各社ともにオーナーへの賃料支払いができない状況に陥っています。

ただ、もしかしたらサブリースに関する法律が改正され、人々のライフスタイルや産業構造に変化が生じたとき、大地氏が描いたようなビジネスモデルが成功するかもしれません。

また、オーナーの方々は一流企業にお勤めの優秀なサラリーマンということですが、スマートデイズ社が成し得なかった女性支援型ビジネスモデルを、自社の企画として考えてみるというのもありだと思います。特に、すでに物件が建っている方は、最もコストがかかる部分は終えているわけですから、斬新な発想でシェアハウスを運用し、副業として収益を上げていっても良いはずです。(アイディアの例については、本ページ最後に案内のある「Business Model Designing 8月号」にて紹介します。)

いずれにせよ、スマートデイズ社を含め、一連のシェアハウスを扱うサブリース会社の対応はとても残念なものでした。被害にあったオーナーは1,000人を超えると言われ、不安を抱えながら毎日を過ごされています。本レポートを執筆している2018年6月時点では、先行きどうなるかまだわからないようですが、とにかく、解決の糸口が早く見つかることを祈っています。

「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルをさらに深堀りします

「かぼちゃの馬車」のビジネスモデル分析について、さらに詳しくお知りになりたい方は、NOOKが7月20日に発行する「Business Model Designing 8月号」にてお読みいただけます。

8月号特集:「かぼちゃの馬車」というビジネスモデルの問題点、改善点

  • 「かぼちゃの馬車」はそもそもシェアハウスだったのか
  • 大地氏の書籍によると、スマートデイズ社はわずか4年で262億円の売上をあげたそうだが、入居率4割にもかかわらず、その売り上げはどこから得ていたのか
  • 「フリー」のビジネスモデルで事業を行う場合、どこから考えなければならなかったのか
  • 物件が建った今、シェアハウスを使って可能なビジネスモデルアイディアはないのか(民泊以外)

ご興味のある方は下記よりご登録ください。(2018年6月20日~7月19日まで無料キャンペーン中)