テープ起こしで別のキャッシュポイントを見つけ、ビジネスモデルを進化させた事例

今回は自分がコンサルティングを行ったテープ起こし屋さんのビジネスモデルを紹介します。

事例:良品計画が中国でホテルを開業予定。「MUJI HOTEL」のビジネスモデル」の中で「別の土俵で展開していくビジネスモデル」として、ホテル業を営みながらその他のキャッシュポイントが組み込まれている話をしました。テープ起こしという業種でも、同じようなことが可能になります。

その会社の社長はすでに引退され、引き継ぐ社員もいないことから一代で終わってしまいましたが、たった一人で始めたテープ起こし業がビジネスモデルとしてどのように進化し、上場企業と取引に至るようになったか、見てみたいと思います。

特殊スキル無し、資金も無しで起業

社長さんは元公務員でしたが、行政という上から目線ではなく、企業側の立場に立ち、世の中の役に立ちたいという願いがあり、起業しようと思っていたそうです。

ただ、事務職なので、特別なスキルを身につけているわけではなく、資金もたくさんあるわけではありませんでした。

そういった中、日々役所で業務をこなしているとき、気付いたことがあります。

役所では頻繁に会議が行われていますが、傍聴できない人向けに必ず議事録を発行しています。その議事録を作成するのは、内部の職員ではなく、テープ起こし業者に業務委託していたのです。

その社長は、大学が文学部で、言葉に対するこだわりもあったため、外部業者からあがってきた原稿のチェック係でした。ただ、同音異義語や句読点の使い方が雑で、自分で直しているうちに、「これなら自分でもできる」と思ったそうです。

テープ起こしの作業は、単純に言えば、録音された音声を聞き、テキスト化することです。音声データーを再生する機器があり、言葉が理解できれば誰でもできます。役所の業務を見ている限り、需要は確実にある。しかも、人を雇わなくても、お金をかけずに自分の身一つで業務はこなせるだろう。

そう思い、役所を辞め、テープ起こしという業種で起業しました。

自分が頑張れば良い「自家発電型事業フォーマット」

テープ起こし屋として起業したての時の、最初のビジネスモデルを見てみましょう。

中央の緑色の人物が社長、業務の範囲は緑色の点線になります。

自宅には、顧客から預かったテープを再生するカセットテープレコーダーと、テキストを入力するパソコンがありました。文学部出身ということも幸いし、言葉のセンスは身についていたことから、最初の案件からクオリティーの高い仕事として評価されたそうです。

サービスとお金の流れ

「自家発電型事業フォーマット」のサービスとお金の流れは次のようになります。

顧客には音声がテキスト化された議事録を提供し、顧客から料金をいただくという、いたってシンプルな流れです。しかも自分一人で完結していることから100%が収益となります。

業務拡大に伴い「プロデュース型事業フォーマット」に

着実に受注数が増え、自分一人では案件が回しきれなくなりました。ただ、仕事に波があるため、社員を雇うリスクは高いと感じていました。

そこで、外注として作業できる外部スタッフをネットで募ったところ、全国から応募がたくさん集まったそうです。そして、これまで自分のやってきた作業の多くを、その人たちにアウトソーシングすることに決めました。

その時のサービスの流れは以下のようになります。

外部スタッフに作業をアウトソーシングする一方、自分は緑色の点線の枠内に業務を絞り、外部スタッフから上がってきたテキストが議事録という商品になっているかどうかを確認します。

サービスとお金の流れ

「プロデュース型事業フォーマット」のサービスとお金の流れは次のようになります。

音声のテキスト化については外部スタッフに任せ、テープ起こし業者としては、顧客へのサービス提案のみ。そして顧客は料金をテープ起こし業者に対して支払い、一方、業者は外部スタッフに、テキスト量に応じた作業費用を支払うという形です。

「自家発電型事業フォーマット」の時に比べ、100%の料金を得ることはできませんが、外部スタッフをうまくマネジメントすることで、多くの案件を同時並行的にこなせます。その結果、非常に速いスピードで業務を拡大することができました。

テキスト化の工程で発見した「文字校正」というサービス

音声データーをテキスト化する際、同音異義語や句読点の位置、表記の統一、専門用語の使用法など、文章のチェック、つまり「文字校正」を行う必要がありますが、その会社の仕上り品質の良さは、まさにスタッフの文字校正力にありました。

そこで、制作工程の一部に埋もれていた文字校正を、一つの独立したサービスとして売り出してみたのです。イメージとしては以下のような流れです。

大手出版社でも文字校正は重要な制作工程で、その部署だけ独立させている会社もあるくらいです。社長さんは、そういった層をパーフェクトカスタマーと定めました。特に何かを増やすわけでもなく、会社もスタッフも現状のまま。受注できなくてもリスクはないため、「文字校正サービス」をとりあえず始めてみようということになったわけです。

 上場企業からの注文

誤字脱字だけで顧客に迷惑をかけ、会社の信用を失ってしまうことは多々あります。

社内でそれを防ぐ体制がとれれば良いのですが、トラブルを100%防ぐためにはそれなりにコストがかかってしまう・・・まして、それが一年中あるわけでもないことから、部署を設立するなど現実的ではない・・・

まさにそのように考えている業者から「文字校正サービス」への依頼がきたのです。

具体的にどのようなものを校正したと言うと、カレンダーや手帳、電車の時刻表、保険の約款などで、ちょっとした間違いだけで社会的信用が失われてしまうものばかりでした。

ちなみに「文字校正サービス」につけたキャッチコピーは次の言葉です。

文字校正を通じて
私たちが守るのは
御社の信用です

テープ起こしの事業しか考えていなかった社長さんご自身、あらためて「文字校正サービス」の価値に気付かれたようです。

進化するビジネスモデル

テープ起こし、文字校正の二本立てで業務を拡大できたわけですが、この社長さんはさらに次のことに悩んでいました。

外部スタッフのクオリティにばらつきがあり、上がってきた原稿のチェックに時間がとられてしまう・・・

そこで、外部スタッフになる方々の品質にばらつきが生じないよう、テープ起こしに関する業務をマニュアル化しました。そして「しごと塾」という新たな事業フォーマットを加えたのです。ふたたびキャッシュポイントが増えました。

テープ起こしという、あまり表に出ない地味な仕事ですが、ビジネスモデルとして考えるといくらでも可能性がでてきます。

あなたの事業もきっと進化させることができます。