「アイディア資本主義」で求められる起業家の資質とは

日経新聞にて、2017年5月22日から3回に渡り「スタートアップ大競争 世界が動く」という記事が1面に掲載されました。また、2017年5月30日に「ベンチャー調達 2000億円超」という記事が掲載され、技術や専門職への資金調達の文化が日本でも徐々に浸透してきたことがわかります。

このような動きが見られる中、起業するにあたり、どういった資質が求められるのか、考えてみたいと思います。

海外起業家たちが見せる「アイディア資本主義」

スタートアップ大競争(上)走り出す 起業家4億人 大変革期、小が大を制す」の中で、インドにある零細店がスマホの経営支援アプリ「ショップキラナ」によって様変わりした様子が語られています。以下にアプリ開発者にまつわるエピソードを引用します。

「だれもがスマホを手にした。この機を逃せない」。シュミット・ゴラワット氏(29)が気温40度台の炎天下を歩き、経営支援アプリ「ショップキラナ」を2千人に広めた。国内900万の零細店に巨大な外資チェーンと戦う力を与えたいと起業。2019年に25都市に広げ、東南アジアやアフリカへの進出も探る。

また、元マイクロソフトのマット・スコット氏が中国で起業した例も紹介されています。中国での人件費上昇が言われる中、「世界の工場」と呼ばれる工業都市において、AIを使った無人工場に挑戦しているそうです。

14年創業の「深圳碼隆科技」の本社。スコット氏らの机の上では大画面のパソコンが日夜、工場から集まる膨大なデータを読み込む。画像から製品や部品を正確に識別するソフトは人手を減らせると評判になり、毎月300社以上から注文を受ける。「いずれ人が工場で働かなくて済むようになる」と野望は膨らむ。

こういった、優れたアイディアで起業し、資金調達や多くの収益を上げている状況について、日経は「アイディア資本主義」と呼んでいます。(参考:「スタートアップ大競争 世界が動く(中)アイデア資本主義 ハードル低下、コスト10分の1」)

日本は「大企業が目覚めた」

日経新聞での連載最後の記事「スタートアップ大競争 世界が動く(下)大企業が目覚めた 新たな結合、生み出せるか」にて、秋葉原で行われた大企業45社と起業家とのマッチングイベントが紹介されていました。その中で、富士ゼロックスの社員の方がスタートアップ企業3社と組み、対話型ロボットを発表するそうです。

また、「大企業の人材や技術を解き放つ」として、投資会社がソニーの眠っていた技術を応用した事例が紹介されていました。(WiLとソニーの合弁会社「Qrio」)IoTという分野で今後活用されていくものと思われます。

このような「オープンイノベーション」の動きは今後も加速すると思われますが、日経の記事では、あくまでも大企業ありきとして紹介され、他国の事例のような「小」が「大」を制するスタートアップと様子が異なるように思います。

起業に対する日本人の考え方

日本における起業という動きの中で、大企業が前面に出てくる要因として、おそらく起業に対する日本人特有のメンタルな部分が影響していると考えています。

中小企業庁が出している2017年版「小規模企業白書」では、日本の企業の開業率と廃業率を、世界主要国と比較したデーターが掲載されています。

世界から見た日本の開業率

アジア代表として中国が入っていないのが残念ですが、日本は開業率が主要五か国の中で一番低い値です。開業する企業が少ない分、当然のことながら、廃業率も低くなります。

興味深いデーターとして、起業に対する無関心な人の割合も掲載されていました。

起業無関心者の割合の推移

データーが2012年までなので、最近はわからないのですが、日本は12年間起業無関心者ダントツ首位をキープしています。2003年から徐々に下がったものの、リーマンショックのあった2008年から再び上昇し、2011年の震災でさらに増え、2012年には77.3%と過去12年間で一番高い値を示しています。

他国の動きを見てみると、興味深いのが米国です。リーマンショックの後に若干上がったものの、それ以降は下がっています。その他の国も多少の変動はありますが、2001年の頃よりは軒並み値が下がっています。

では、こういった国々で、起業に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか。

起業に対するイメージ

このレーダーチャートでも、最も値が低いのが日本です。起業に必要な知識や経験もなく、有利な機会があるとも感じられない以上、起業することが望ましいとは思えないでしょう。

興味深いことに、周囲に起業家がいるわけではない中、起業に成功すれば社会的地位が得られるというイメージが強いようです。おそらくメディアなどで紹介される起業家たちの成功物語をイメージしているのではないかと思われます。

さらに具体的に、日本において起業に関し、どのようにイメージされているのか、データーを見てみましょう。

日本における起業のイメージ

上のグラフでは、左が「起業希望者・起業準備者」、右が「過去の起業無関心者を除く起業無関心者」のデーターとなっていますが、アンケートの7項目のうち、左と右で上位を占めているのが、次の二つです。

  • リスクが高い(失敗時の負債等)
  • 所得・収入が不安定

リスクが高く、不安定だけれども、成功すれば社会的地位が得られる。もしかしたら「起業=賭け」のようなイメージで捉えられているのかもしれませんね。

その他5つの項目は比較的ポジティブな項目となりますが、大半がリスクや不安定さを感じている以上、日本人の中で自ら進んで起業しようと思う人は少ないと言えるでしょう。

大企業主導型で「アイディア資本主義」は出来るのか?

そういったイメージの中でも、思い切って起業した日本人がいるわけですが、現実問題として、どんな事業でも軌道に乗せるのは簡単ではありません。まして、例えば身内や友人から「あぶなっかしいことしてるなぁ」と思われている中で、上場企業からのオファーがあれば、受け入れるのは当然でしょう。

その時の懸念点ですが、大企業と組んだ起業家たちは、最初のうちはパートナーとして扱われ、プロジェクトが進むかもしれませんが、次第に起業家のノウハウが大企業側に取り込まれ、起業家自身がその大企業の一員となるか、あるいは下請けとなる可能性が考えられます。

大企業側はどうかといえば、わずかな投資でリスクを冒すことなく、また自分たちで最新の技術を身に着ける苦労もなく、面白そうなベンチャーをピックアップするだけで、新しいことに挑戦する「目覚めた」大企業という印象を世の中に与えられます。

圧倒的に大企業に有利な中、そこに見えてくるのは「アイディア資本主義」とは程遠い世界、「オープンイノベーション」を入口とした、あらたな業界ヒエラルキーが形成されるような気がしてなりません。

一方でベンチャー調達額が増えている

2017年5月30日の日経に「ベンチャー調達 2000億円超」という記事が掲載されました。米国や中国の4~7兆円というVB投資額に比べるとまだまだですが、ここ数年の金額の上昇傾向を見る限り、しばらくは続くと思われます。

日本人は、技術やアイディアといった、目に見えないものにお金を払わない傾向にあります。また、大企業の下請けになれば、どんなに優れた技術であっても、収益は技術料ではなく、納品物となってしまいます。

だからこそ、ベンチャーでの資金調達のような形で、自分たちで資金を集め、技術や専門人材にあてがい、自分たち主体で事業を進めて行こうという姿勢を見ることができるのは良い傾向だと思います。

日本に起業家が増えるとどうなる?

2016年の世界の名目GDPランキングでは、日本は3位だそうです。一方、2016年の一人当たりの名目GDPランキングでは、日本は22位と一気に下落します。(参考:世界経済のネタ帳

ここで簡単に、この二つのGDPの整理をしてみたいと思います。

世界3位になったGDP 国全体の付加価値の総額
世界22位になった一人あたりのGDP 上記総額を人口で割ったもの

計算式に表すと、以下のようになります。

一人当たりのGDP = GDP ÷ 人口

この一人当たりのGDPの考え方について、様々な議論が交わされていますが、国民の豊かさということを考える場合、指標としてGDPよりも一人当たりの名目GDPが目安になるという意見がありますが、ここでは、この意見に基づいて考えることにします。

では、この一人当たりのGDPを上げるにはどうすれば良いのでしょう。そして豊かさを感じることができるようになるには何をすれば良いのでしょうか。

それは、会社という単位で売上を上げるのではなく、一人一人が稼ぐことです。つまり起業家が増えるということは、一人当たりのGDPの底上げになります。そして最終的に国民一人一人の豊かさに繋がることになるのです。

起業家に求められる資質とは

クリエイターの方々の起業支援をしていると、「デザイナーとして起業したい」「格安ランディングページで中小企業のサポートをしたい」といった意見に出会います。

最近は他の業種での起業支援をご依頼をいただくことがあり、不動産鑑定士の方から「大家さんの不動産運営をサポートしたい」というお話しをいただきました。

ただ、事業としてそれを継続していくのは、正直難しいと思います。そのような市場はすでに成熟期に突入していると思われ、レッドオーシャンで生き残っていくために、競合を蹴落とすしかありません。

ただ、市場を奪われた競合他社は廃業に追い込まれることになり、結局起業人口としてプラマイゼロ、日本における一人当たりのGDPは変わりません。(衰退期に入っていくので、むしろマイナスかもしれませんね)

今求められるのは、海外で見られるような、小資本・少人数で爆発的に拡大するビジネスができるような、次の資質を持った起業家です。

  • 市場が求めているが、競合が提供していない分野を発掘できる
  • 小資本で実現可能なビジネスモデルとして設計できる

成功事例を上げると、例えばAirbnbを立ち上げた3人は、その典型といえるでしょう。(当サイトビジネスモデル研究参照:「事例:Airbnbはリスクを最小限に抑えながらビジネスモデルを進化させている」)また、日本では苦戦していますが、Uberも参考になると思います。

そして、こういった起業家たちの営みは、新たな産業創出に繋がり、さらに雇用創出にもなります。

大企業に飲み込まれることなく、「アイディア資本主義」で活躍する起業家が日本で生まれることを期待します。

参考文献:
失敗をゼロにする 起業のバイブル
一般社団法人シェア・ブレイン・ビジネス・スクール代表 中山匡著

アップル帝国の正体
後藤 直義 (著), 森川 潤 (著)