2017年4月25日、ソニー生命が「中高生が思い描く将来についての意識調査2017」を発表しましたが、中高生男子が将来なりたい職業の1位に「ITエンジニア・プログラマー」が選ばれました。
この時の高校三年生が社会人になる5年後、大きな憧れを抱いてこの業界に入ってくるわけですが、彼らを受け入れる会社側はどのような対応を求められるのか考えてみたいと思います。
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組織の歯車というよりは、チームでのプレイヤーとして活躍できる職業
では実際にアンケート結果を見てみましょう。
(ソニー生命調べ)
この調査がインターネットで実施されている点、中高生のスマホ普及率が高い点を考えると、回答者はITリテラシーが高く、そんな彼らが日常的に触れているSNSアプリやスマホゲームを素直に面白いと感じ、それが結果に表れたとも言えます。
その他、上位3位までの結果を見てみると、中学生は「ゲームクリエイター」「YouTubeなどの動画投稿者」、高校生は「ものづくりエンジニア」が入っています。
選ばれた職種から判断する限り、会社として組織だって何かを進めていくというよりは、自分の才能を発揮できる「プレイヤー」として、将来活躍したいという想いが強い気がします。
職種と乖離する「将来の夢」
今回の調査には、職業の他に、将来どのような大人になりたいかというテーマでアンケートが取られています。その結果を見てみましょう。
(ソニー生命調べ)
「将来の夢」として、1番多かったのが「安定した毎日を送る」となっています。第2位の「好きなことを仕事にする」は、職業選びという点で「ITエンジニア・プログラマー」にもつながってくると思われますね。
いずれにしても、上位5位まで眺める限り、仕事とプライベートの両者がちょうど良いバランスを保ち、充実した将来を望むような安定化志向がとても強いように思われます。
一方で、彼らがなりたい職業として上位に選んだIT系企業は、常に最新の技術、新しいことへの挑戦が求められます。しかも、それらが必ずしも成功を収めることは約束できない状況にいつもさらされています。数年単位で生まれては消えていくネットサービスやハードウェアを見ている限り、会社が決して安定しているとはいいがたい職種でしょう。
彼らの99%が就職するIT系企業は中小の制作会社
それでも自分の希望する職種で、安定した将来を兼ね備えたIT系企業となると、選択する会社は必然的に上場企業になってきます。ただ、そういった大企業が日本にどのくらいあるのか知っている中高生は、少ないと思われます(社会人でも知ってる人は少ないのではないでしょうか)。
中小企業庁が出している「2017年版『中小企業白書』」によると、日本の企業数はざっくり400万社あります。そのうち、メディアで紹介されるような大企業は全体の0.3%程度、残り99.7%が無名の中小企業です。
仮にこの割合をIT系企業に適用してみると、「ITエンジニア・プログラマー」として「安定した毎日を送る」ことが可能な上場企業に就職できるのは、全体の1%以下。残りの99%以上は中小企業へ就職することになるでしょう。
二極化するクリエイターとしての未来
上場企業に入社できた「ITエンジニア・プログラマー」は、業界カーストの頂点に位置するITゼネコンに立つことができます。もしかしたら、情熱大陸やプロフェッショナルに出てくるような「プレイヤー」として活躍することもあるかもしれません。
一方、99%の「ITエンジニア・プログラマー」はドラマやドキュメンタリーで登場するようなクリエイターとは程遠い姿です。待望のプレイヤーではなく、新しく加わった組織の歯車、どんなに良い提案をしても手柄は上司のもの、会社自体が下請けだとすると、待っているのはクリエイションとは程遠い作業ばかりとなるでしょう。
2024年以降、新陳代謝が始まる
ところで、2020年は東京オリンピックというイベントの他に、大きなイベントがあります。大学入試でのセンター試験の廃止にともなう、新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入です。
以下、朝日新聞の記事から、骨子を引用します。(朝日新聞「センター試験後継案、英語は民間で 国数に記述式問題」)
大学入学共通テスト(仮称)の骨子
〈英語〉
- 民間試験で「読む・聞く・話す・書く」を評価
- 高3の4~12月に2回まで受けられ、結果の良い方を採用(浪人生は別途検討)
- A、B両案から6月に絞り込み
- 【A案】20年度からセンター作成の試験を廃止。民間に移行
- 【B案】23年度までセンター作成の試験も併用。24年度から民間に全面移行
〈国語・数学の記述式〉
- 採点はセンターが民間業者に委託
- 国語は80~120字程度で答える問題を入れ、いずれも3問程度
- マークシート式と合わせ、試験時間は国語が80分から100分程度に、数学は60分から70分程度に延長
- 24年度から地歴・公民や理科も記述式を検討
■文章読み取る力・表現力問う
この問題では行政機関の広報資料を題材に、話し合う場面や異なる立場からの提案書の検討を通し、文章を的確に読み取る力や、設問中の条件に応じて表現する力を問う。
問1 複数の文章を読み、比喩表現が示す内容を整理して説明する問題。正答のためには「一石」が「景観保護ガイドラインの導入」などであり、「二鳥」が「観光資源」と「空き家対策」か「治安維持」だと示す必要がある。
問2 二つの文章を比較し、違いをとらえて評価内容を書く問題。正答のためには、「目につきやすい色の看板」という提案書の要旨の記載が、ガイドラインに沿って「伝統的建築物との調和」に修正されるべきだと書く必要がある。
問3 異なる立場の意見で対比されている事柄を整理して書く問題。正答のためには、個人の自由の制限と、自己負担を求めることの是非について、父と姉の意見が対立していることに触れる必要がある。
問4 文中から主張の根拠となる情報を選び出し、説明する問題。正答のためには、姉の意見と一致する点としてガイドラインから「景観を将来の世代に引き継ぐ」「必要な予算があれば、その計上を検討」といった部分を引用する必要がある。
こういったカリキュラムを受けた大学生が一斉に就職するのが2024年。グループディスカッションや、プレゼンを学生の頃から行い、英会話もできる人たちが会社に入ってくるわけです。
外国とやり取りしている大企業であれば、彼らを受け入れ、自分たちの資産として活用することはできるでしょう。むしろ新人としての土台が学生時代にできあがっているので、即戦力として歓迎するのではないでしょうか。
問題なのは、中小の制作会社です。現在、組織を担っているのは、団塊の世代の価値観を引きずった世代です。プレイヤーとしての才能より、歯車として会社に貢献できるかどうかが評価基準となります。しかも英語もままならず、日々の業務に追われていることから、新しい情報を学ぶ意欲もほとんどありません。しばらくは、シリコンバレーの格言のような形で、社員が採用されていくでしょう。
Bクラスの人は、Cクラスの人を採用したがる。
参考:「ウェブ時代5つの定理 (文春文庫)」
中小企業の採用担当が、自分よりも下の人を採用する限り、古い世代は威厳を保つことはできるでしょう。いちいち物申す面倒なプレイヤーよりも、「やれ」と命じれば文句を言わずになんでもやる部下がいれば良いのです。
しかし、5年もすれば勢力図は変わります。社内だけでなく、クライアント先でも新しい価値観が浸透してくるからです。その価値観についていけない団塊世代は「老害」となって追いやられ、世の中が新しい価値観で回るようになっていきます。
現在の30~40代がギャップを埋めることになる
もしあなたが2017年の時点で35歳の場合、2024年は42歳、新しい世代が入社してきます。その時、中小企業で部長職だとすると、例えば以下のような状況になった際、新人の前でどのように振舞うのでしょうか。
- 2024年時点、あなたは最新の技術に精通しているでしょうか。
- 新規顧客の会社の公用語が英語で、メールや会議もすべて英語です。あなたはどうしますか。
- 顧客から1000ページを超える要件定義書を渡されました。その時あなたはどうしますか。
新人は、当然部長であるあなたの方が経験豊富で給料も自分の倍以上あるのだから、全て対応できると思うでしょう。
ただ、もしあなたが対応できなかったら、新人はなんと思うでしょうか。もしかしたら能力主義で教育を受けた新人に「自分の方が技術も知識もコミュニケーション力も上だから、あなた以上に給料をくれ」と言われるかもしれません。そんなとき、さらに自分より立場が上の役員に相談しても、「部長なんだからなんとかしろ」と身もふたもないことを言われるだけです。現在30~40代の人は、7年後、二つの価値観の板挟みになります。お偉いさんたちは、そんなあなたに新人の管理を任せ、一方新人は、あなたに自分の手本であることを期待します。
この板挟みの状況を見据え、どのように行動すべきか、そろそろ考えなければいけないのかもしれません。